50、【怠惰】とサントの歴史
感想に書かれていた諸々に対する補足回のようなもの
♢♦♢
「ッヒィークション!!」
「ベル、大丈夫?」
「うん。大丈夫だよお姉ちゃん。誰かがウワサでもしてるのかなぁ?」
「いや、ウワサ云々とかよりもうちょっと女の子らしいクシャミをだなぁ……せめて『クチュン』とか……」
分厚い緑のカーテンが朝の日差しさえも遮ってしまうガンギルオン大樹海。
そのカーテンの裏側には湿った土が広がっており、日が届かないことも相まってひんやりとしておりベルの小さな体を冷やしていたのだろう。
そんなベルの様子を見てテムジンが足を止め、それに合わせて他の一同も足を止めた。
「体調が悪いようなら少し休みましょうか?」
「んー、ゴロゴロ出来るんなら休みたいけどココじゃそうも言ってられないから大丈夫だよ。」
「ならマーブルウルフに乗っとくか?そうすれば勝手に歩いてくれるから楽できるんじゃないか?」
「パス、オオカミさんの上って意外に疲れるんだよねー。」
「わふん…」
ただ座っているだけのように見えるマーブルウルフの騎乗だが、馬で言うところの鞍(革製の座る場所)や鐙(乗馬中に足を乗せておく場所)などの道具を使用していないため見た目以上に下半身の筋肉を酷使することにベルは気が付いたのだ。
それに加えてマーブルウルフの体毛は岩と変わらない程に硬質であるため、その上に座っているとお尻が痛くなってくるという理由もある。
楽して移動するという事を考えるならこの世界で真っ先に思いつくのは馬車であるが、こんな樹海の中心には当然馬車はなく、そもそも地面が舗装されておらず木々の立ち並ぶ樹海の中を進むことが出来る馬車などあるはずもない。
となると移動手段が徒歩になるのは必然であった。
「あーあ、こんなことなら騎乗に向いたモンスターをダン……むごごごご……」
(『ダンジョンで作ってくれば良かった』とは流石に言わせないわよ!)
最初はベルに振り回されっぱなしのフェゴールであったが、最近ではベルが不適切な発言をするタイミングを読んで口を塞げるようになっていた。
フェゴールが召喚される際についでのように付けられた『知能レベル最大』にかかれば普通のモンスターでは難しい空気を読むといった芸当も可能なようだ。
「どうしたんだな、フェゴールがそんなに慌てるなんて珍しいんだな。」
「な、何でもないわよ!ね、ベル?」
(コクコク!)
もはや隠す気もないと思わせるようなフェゴールの慌てっぷりだが、トントンはとりあえず苦笑いしつつもそれ以上の詮索は止めた。
それにしても『知能レベル最大』という割にフェゴールは、緊急時に冷静になれなかったり会話のノリを相手に合わせたりなど人間臭い挙動をすることがあるようだ。
知恵を身に着けた賢いモンスターという存在は、案外ただの人間と何一つ変わらないのかもしれない。
「ま、なんにせよ体は大切にしてくれよ?どういう訳だかこの中ではベルが一番の火力なんだからな。」
「『どういう訳だか』は余計だけど、そう言われたからには疲れない程度に頑張ってみる。」
「ベルはすぐに疲れるだろうが。」
「えへへー。」
「…まったく。」
そう笑いつつも、ベルは再び歩き出した。
今は徒歩しか選択肢が無かった訳だがマーブルウルフの騎乗を試したりしているあたり、ベルの【怠惰】な部分は確実に残っているようである。
【怠惰】からベルに、たとえ名前が特殊な意味を持たない物に変わったとしてもダンジョンコアの属性として付与された【怠惰】の部分は完全には無くならないようだ。
「ジャンもそう落ち込まないでください、ベルちゃんの頑張りのおかげで思ったよりも進行速度は悪くはないんですよ。このままのペースなら四日~五日程度でサントの町にたどり着くでしょう。」
「ねーねー、サントってどんな町なの?」
「そうですね…一言で言えば『樹海と共に成長した町』ですかね。」
「樹海と共に?」
テムジンの言葉に対してよく分からないといった表情でコテンと首を傾げるベル。
「はい、元々は樹海から溢れ出すモンスターに対抗するための前線基地のような場所であったと聞きます。しかしあまりにも広大なガンギルオン大樹海をカバーすることは小規模な拠点では無理があると判断した当時の防衛隊長が、ガンギルオン大樹海を丸ごと囲む防壁を作成するという大規模な作戦を思いついたのです。」
「この樹海がどれだけ広いか分かんないけど、周りをグルっと囲むだけの壁って作れるものなの?それもモンスターに破壊されない程度の壁なんだよね?」
「その考えは当時の防衛体長がぶつかった最初の壁だったそうです、防壁だけに。」
「あ…あはは…(テムジンさんもこんなギャグ言うんだ…)」
普段冷静に見えるテムジンの新たな側面が垣間見えたが、サントの町の歴史うんちくはまだまだ続くようだ。




