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46、【怠惰】vsグレーウルフ

ジャンの言った通りグレーウルフの群れの中の5匹ほどが足音激しく向かってくる。


「チッ、全員で来てくれればリーダーががら空きだったんだが…トントン!」

「水よ凍れ、我が敵に氷柱の一撃を!氷槍(アイスニードル)なんだな!」


杖の先端に魔力を集中させて作り出したツララと言うには大きく長い、まさに氷でできた槍を出現させたトントン。

普段ならこのまま発射されるのだが、このタイミングでもう一人の魔術師が詠唱に入る。

ベルの年下の姉であり全ての魔法の真理を得た少女、フェゴールである。


「集いし魔力に更なる活性を!魔法強化(マジックブースト)!」


高らかと詠唱する声に合わせてトントンの生み出したツララの前に円形の光の膜が現れる。

その直後に発射された魔法のツララは膜をくぐると一回り大きさと速度を増し、正面から向かってきていた三匹のグレーウルフを巻き込み確実なダメージを与えた。


「おお、すごいサポートなんだな。」

「あなたも中々やりますね。細身の殿方であれば惚れていたかもしれません。」

「ほっとけなんだな!」

「喧嘩している場合じゃ……無いッ!」


二人の漫才にツッコミを入れつつタージャもまた的確に後方から迫るグレーウルフの胴体に数本の矢を命中させていた。


「GARUUUU!!」


ダメージを負った四匹の速度は落ちたが、今だノーダメージの一匹が地面を強く蹴り大きくジャンプし上空から飛び掛かった。


「ッしまった!?」


テムジンの大盾は両手で構えるほどに重量のある代物である。

ゆえに正面からの攻撃には容易に耐えうるが、真上からの攻撃を防ぐには重い盾を上方向に構えなければいけないため咄嗟の反応はできない。

経験の豊富な冒険者であれば相手の動きを読んで先手で構えておくか力任せに盾を持ちあげて防ぐことも可能であったかもしれないが、残念ながらDランクである彼にそこまでの技量は無かった。


(防げないのならばせめて相打ちに…)


などと不吉な考えが頭をよぎる中、とても可愛らしい声がその後ろ向きな思考を中断させる。



倉庫開放(オープンストレージ)、コンロ!」



観音開きの次元の扉から、仲間たちの間を縫ってコンロが宙を舞う。

何とも摩訶不思議な光景だが、要は速度の乗った鉄の塊である。

空中で無防備となったグレーウルフには亜空間から射出されるいびつな形の弾丸を避ける術はなかった。


「GOAAAAA!?」


ストレージリングから飛び出したコンロがジャンプ中だったグレーウルフの横腹に見事命中し、空中で体勢を崩したグレーウルフはテムジンの真横の地面に頭から叩きつけられた。


「助かりました、ベルちゃん。」

「えへへー♪」

「アレは昨日の夜に俺に向かって飛ばした火の出る魔道具!?」

「そうだよー。魔道具じゃないけどね。」


まだ囲まれている状況であるためオーバーリアクションこそしないが、内心で頭を抱えるジャン。

確かにベルの道具には期待していたし実際そのおかげで助かったのだが、予想を下回るゴリ押しっぷりがコレジャナイ感漂うというか、一周回ってベルらしいというか、とにかくリアクションに困るベルの攻撃には苦笑いしか送ることが出来なかった。


「というか、それで槍を飛ばした方が強いんじゃないのか?」

「あ。」

「『あ。』じゃねーよ!?ストレージリングを使うのは目を瞑るからせめて武器を使えよな。」


全く持ってジャンのいう通りである。

昨日の夜の出来事からヒントを得て放った攻撃だったが、飛ばすものまで再現する必要はない。


「じゃあもう一回。倉庫開放(オープンストレージ)、長槍!」


再び現れた次元の扉からアダマンタイト製の長槍が発射される。

パッと見なら矢に見えなくもない外見だけで不思議とコンロよりも安心感があるベルの長槍は、手ごろに狙える位置にいたグレーウルフに向かってグングンと速度を上げていく。


自身に迫る飛び道具の存在に気が付いたグレーウルフは、素早くその場を飛びのき回避した。

ベルの放った長槍は的を外した、かのように思われた。


最初に狙ったグレーウルフが飛びのいた位置の裏側、ちょうど死角になっていた場所に一回り大きなグレーウルフが立っていたのだ。

大きなグレーウルフは先ほどまで死角だった場所から飛んできた長槍に対して咄嗟に反応することが出来なかった。


「GURAAAAA!?」


そのままグレーウルフの胴体に長槍が直撃、おぞましい声を上げながらその場でのたうち回るがしばらくするとその場で動かなくなった。


「やった、大きいの倒した!」


大喜びするベルだが、後ろからは何の反応もない。

何事かと振り向くと、『蒼天の探求者』の四人は何故かポカンと突っ立っていた。

目線をフェゴールの方に移すが、彼女にも何が起こっているのか分からないという様子で首をひねっていた。


「ちょっとみんな、どうしちゃったの?」


そう尋ねるベルに答えたのはジャンだった。


「ベルが倒した奴…」

「うん?」

「あれ、リーダー。」

「…」

「…」


そういえば振り向いたりポカンとしたり、かなりの隙を晒していたハズなのにグレーウルフが攻めてくる様子が無い。

それどころか何匹かはすでに逃走し始めていた。


「え、ええと、だ、大勝利~?」


何ともあっさりと勝利をもぎ取った六人が微妙な表情でお互いの無事を確かめあう。


グレーウルフを一撃で倒すことが出来たのが唯一ベルだけであった事実に気が付くこともなく。

ベルの攻撃が強力だった件の種明かしはおそらく次回に入るはずです。

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