40、ダンジョンコアとお月見センチメンタル3
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夜の肌寒い風が静かに、水辺に座る彼女の白い長髪の隙間を通り抜ける。
ふわりと舞う白の曲線は、風が止まると重力によって直線に戻ってゆく。
彼女の目の前に広がる街道沿いの小さな湖、その水面は鏡のように、下に向かって昇る二つの月を映し出していた。
水面のスクリーンに映る月を眺める彼女は無表情で何を考えているか分からない顔をしているが、自らの着ている桜模様の和服には数滴の涙が零れた跡が残っていた。
「ほらアンタ、そろそろ見張りの交代の時間よ。」
白髪の彼女に声をかけてきたのは青い髪の女性で、彼女の加入しているパーティのリーダーでもある冒険者だ。
このパーティは現在、アルレイヤー王国のほぼ中心に位置する王都バンギールから樹海の町サントへ向かう商会の馬車を護衛するクエストの最中であった。
昼間は馬車の周囲を警戒しながら進み、夜も馬車を守るために交代で見張りに付く。
その見張りの交代時間をリーダーが伝えに来たのである、が──
「…ん、大丈夫。」
「いやいや、さっさと寝なさいよ。昨日も一晩中起きてたって聞いたわよ?それどころか誰もアンタが寝ているところを見たことが無いって言ってるし…」
「…ん、大丈夫。」
「はぁ、昼間にぶっ倒れなければ何にも文句はないけどね。」
そう言いつつ彼女の隣に腰を下ろしたリーダー。
しばらくは静寂がこの場を支配していたが、ぽつりとリーダーが口を開く。
「アタイは、ね…」
「…ん。」
「何だかんだでアンタに感謝してんのよ。」
「…ん。」
「男は信用できないからってワガママな理由で女性だけのパーティを作ったまではよかったんだけど、前衛で戦える女性なんてどこにもいなくてさ、そんなときにアンタがギルドに居たのよ。」
「…ん。」
彼女の口数が少ないのは数日の依頼中で分かっていることなので、適当な相槌は特に気にすることもなく一方的に話を続ける。
「アタイ初めて見たわよ。冒険者ギルドに登録するための用紙に自分の名前すら書かずに、志望動機に『ダンジョンの攻略』とだけ書いて提出した奴なんて。」
「…んー、ん。」
「あ、そこは悪かったって思ってたんだ。」
何となく言いよどんだ程度の違いだったが、眉が僅かに垂れ下がったのをリーダーは見逃さなかった。
「ま、怪しさ満点だったし武器もヘンテコな形の剣だし、正直最初は全く期待してなかったのよ。」
「…ん。」
目線は自然と彼女が腰に下げている一本のカタナに向いた。
この世界の剣は概ね両刃であり、その重量と幅で文字通り叩き切るような戦い方になる。
しかし彼女の持っていたカタナと呼ばれた武器は片刃で、軽く、細身であり、この世界の剣と比べればリーダーがヘンテコだと口にしたのも頷けるデザインだった。
それもそのはず、カタナという武器はこの世界には存在していないのだから。
「だけど今回の依頼でアンタの強さはよーく分かった。武器も戦い方も、ついでにアンタ自身も不眠不休で動けて食事もいらないヘンテコっぷりだけど、アタイはアンタの事を詮索しない。」
「…ん。」
一切の睡眠と食事を必要としない彼女は誰の目から見ても人間ではないのは明らかであるが、リーダーはその件については特に考えないことにしたようだ。
無暗に相手の過去や能力について詮索をしないのは冒険者の暗黙の了解の一つでもあるが、リーダーの発言には彼女を信頼するという意味が込められていた。
「だから──」
そこで一旦言葉を区切り、自分の体をバネのように使って勢いよく立ち上がったリーダーが彼女の方に振り返って握手を求める手を差し出した。
「これからも頼むわよ、モロハ!」
「…ん!」
表情こそ変わらないが明らかに喜びが混ざった声でモロハと呼ばれた少女はリーダーから差し出された手を取る。
かくして『冒険者になりダンジョンを攻略する』という夢を持ち、無事に冒険者パーティの一員となった白髪の少女、【諸刃】のダンジョンコアが樹海の入り口であるサントの町に到着する日は着実に近づいているのであった。
ベル「ダンジョンコアに本来、睡眠は必要ないって過去話のどこにも書いてないよ!」
作者「何だって!だったら後から追記するしかないな!」
フェ「対応が雑すぎるわよ!!」




