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39、ダンジョンコアとお月見センチメンタル2

♢♦♢


ベルがフェゴールに抱擁されているころ、Bランクパーティ『忘れられた黄金』が五日間滞在することになった翠玉(すいぎょく)の地下渓谷の入り口で、そのダンジョンの主は静かに夜空を眺めていた。


まばゆいばかりの星の海の中に目線を泳がせ、しばらく後に顔を少し上げる。

そこにあった二つの月はどうやら彼女にとっても気持ちのいい物ではないようだ。


「月見というのはもう少し優雅なものなのでしょうが、やはりこの月では風情の欠片もありませんわね…」


翠玉の地下渓谷に住むダンジョンコア、【突風】はそう呟くと漆黒に浮かぶ二つの円に向かってため息を吐いた。


別に月が嫌いという訳ではない。

この月を見ていると、言葉にするには難しいが、自分の求めている月はこれではないというモヤっとした気持ちが彼女の中で渦巻いてしまうのだ。

とは言え、『自分の求めている月』というのもどういう物かが霧がかかったかのように思い出せないというのもモヤっとする原因ではあるのだが。


「っと、考えていても仕方がありませんわね。」


分からない事をいつまでも考え込んでも仕方がない、と気持ちと視線を切り替え、【突風】はオルスたちの元へと歩き始めるのだった。




「今日もお疲れ様でしたわね、まさか朽ちた小屋の再建築まで手伝ってもらえるとは思いませんでしたわ。」

「おう、お疲れさん。冒険者はランクの低いうちは雑用ばっかり回されるからな、柵の修理なんかで大工作業も慣れてるんだよ。」

「…何といいますか、ますます貴方がBランクなのが嘘くさく感じますわね。」


そもそも『忘れられた黄金』がこのダンジョンに滞在しているのは、このダンジョンにDPを稼がせるためである。

しかし何もせずに五日間も過ごす事にオルスが耐えられず何か出来ることはないかと模索した結果、彼の目に留まったのはかつて人々が拠点として使っていた小屋だった。

小屋を一つ一つ散策していると、一時期には商人や鍛冶屋も移り住んでいたこともあってか大工用具や釘などを発見することが出来た。

少々錆びている物もあったが、まだ使えそうな道具を見繕ってオルスは暇つぶしに小屋を修理して回っていたのだ。


残りのメンバーであるエストリアとハーデスは現在、【突風】が危険度を下げたと言っていたダンジョンの低階層を下見している。

本当に難易度が下がっているかを自らの目で確かめたいと二人は言っていたが、本心はオルスと同じで退屈しのぎであろう。


「しかし【怠惰】…今はベルと名付けたのでしたっけ?彼女にはダンジョンコアとしての自覚が無さ過ぎますわ!ここはやはりわたくし自らが教育して差し上げなければいけないようですわね。」

「ちょ、教育って…一体何をするつもりなんだ。」

「無論、ダンジョンバトルですわ!」

「ダンジョンバトルぅ?なんだそれ?」


ごくごく当たりまえのように言い放つ【突風】だが、ダンジョンコアの常識が人間の冒険者であるオルスに伝わるはずもなく首を傾げた。


「あら、ベルからは聞いてないのですね。ダンジョンバトルというのは簡単に言うとダンジョン同士の決闘の事ですわ。『決闘』と言っても複数人数でのバトルロワイアル形式の試合になることもありますが、勝ち負けのハッキリする賭け事だと思っていただければ結構ですわ。」

「なるほど、具体的には何を競い合うんだ?ダンジョンコア同士の一対一だとしてもダンジョンのモンスターを交えた軍団戦だとしても、『賭け事』って言う割には実力が全てな気がするんだが。」


オルスは気にしているのは、ベルと【突風】が本当にダンジョンバトルを行った場合にでも、はたして平等な戦いがり行われるのかどうか、である。

個人の実力ならば、へっぴり腰でこちらに向かってこなかったベルより明らかに戦いなれていた様子だった【突風】の方が強いだろう。

また、モンスターと共に戦ったとしても固有スキルの『【怠惰】の烙印』がある限りベルに勝ち目は無いだろう。


「何となく言いたいことは分かりますが、あなたが思っているほど一方的なルールではありませんわよ。」

「何?」

「なにせダンジョンバトルのルールは、創世神様がその都度お決めになりますから。」

「創世神?」


【突風】曰く、この世界、そこに住む人間、さらにモンスターにダンジョンコア、それら全てを生み出した神が創世神らしい。

その創世神がその時の参加者に合わせてルールやハンデを決めるため、最後まで結果の分からない緊張感のある戦いになるそうだ。


「へー、そりゃまぁ随分と戦いの好きな神様なんだな。」

「創世神様は暇つぶしと仰っていますが、確かにダンジョンバトルの日は張り切ってますわね。そういえば…」

「どうした?」


楽しそうに創世神の事を話していた【突風】だったが、ふと何かを思い出したのか言葉を区切った。


「まだベルたちは知らない事だと思いますけど、もうじきに生まれたばかりのダンジョンコアを集めてダンジョンバトルを行う『新米ダンジョンコア対抗バトルロワイアル戦』があるはずですわ。もしかすると創世神様は本当に戦いを好まれるのかもしれませんわね。」

「ほー、ダンジョンバトルのお試しみたいな感じなのか?」

「その認識で問題ありませんわ。」


その『新米ダンジョンコア対抗バトルロワイアル』、略して『新米戦』は同じ日に生まれたダンジョンコア同士で戦うダンジョンバトルであり、多くのダンジョンコアが初めてダンジョンバトルを行うことになる試合でもある。

あくまで練習の様なものなので負けてもマイナスになることはないが、優勝者には創世神から直々にご褒美が贈られるらしい。


「ですか…今年は()()()が居ますし、ベルには厳しいでしょうね。」

「あの子?」

「ええ、ベルと同じくらいの変わり者であるあの子がいる限り優勝者は揺るがないでしょうね。」


そういって不敵に笑ってみせる【突風】の顔はどこか楽し気に見える。


そういえば【突風】は新米ダンジョンコアの情報について異常に詳しい。

口調はツンケンしているが、彼女は意外に心配性のおせっかい焼きなのかもしれない。


「で、その変わり者ってのは何て名前なんだ?」


オルスとしては変わり者の方がありがたい。

【突風】が所謂普通のダンジョンコアならば、人間に対して敵対心を持っている者が多いハズ。

それならば考え方のズレた変わり者の方がお近づきになりやすいのではないか、と考えているからだ。


対して【突風】も、ここまでの会話でオルスが好奇心だけで動くような人間界における変わり者であると感じ始めたため、彼になら他のダンジョンコアを教えても問題ないだろうと思い始めていた。


しばらく夜空を見ながら考えていた【突風】はオルスに向き直りゆっくりと口を開いた。


「そうですわね…あの日生まれたベルと並ぶ変わり者のダンジョンコア、確か彼女の名前は──」

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