38、ダンジョンコアとお月見センチメンタル1
アイデアとしてはずっと頭の中にあったのにいざ書くと難しかった、そんな回となります。
「ふぅ、もうお腹にもカバンにも入らないんだなぁ。」
「いつも以上に食い意地が張ってるじゃないか、トントン。」
「それは当然なんだな。あんなに柔らかいパンだけでも衝撃的なのに、具材やかかっている調味料も見たことが無い物がいっぱいなんだな。それに王都で売っていたクッキーと比較にならない程甘いパンにも驚いたんだな。どうもありがとうなんだな。」
「いえいえ、そんなに美味しそうに食べているのを見ているとこっちも嬉しいですから。」
テムジンが考え耽っているころにベルたちの食事も終了した。
食事中フェゴールが食べ物を摂取しなくてもいい体であることの話題も上がったのだが、モンスターの種類に詳しいテムジンが上の空であったためにその話題はすぐに流れてしまった。
それでもベルが美味しそうに食べている様子がら『ベルとフェゴールは種族が違うのでは?』という疑問には達した3人であったが、相手の事情に深入りしないという冒険者の暗黙の了解に則り何も聞くことは無かった。
何度も言うが、冒険者たちの暗黙の了解がモンスターに適用されるべきかはいささか謎である。
「しっかし、二人とも野営に慣れていないようだったが今回が初めてだったか?」
「そうそう、テントを立てるのも一苦労だったよー。」
「ベルは殆ど動いてなかったでしょ。」
「むぅ…」
「まぁまぁ、とにかく初めてだったんだろ?だったらこっちに来てくれよ。」
そういって歩き出したジャンに首をかしげながらも付いて行く二人。
しばらく歩いた先にあったのは木々が少なく開けた場所だった。
「ちょっと木が邪魔だけど十分見えるな。ほら、二人も上を見てみろよ。」
「上?」
ジャンの言う通り顔を上に向ける二人、その目の前に広がっていたのは──
「…うわぁ、すごい!」
「…まさに満天の星空ね。」
「どうだ?この夜空は俺のお気に入りの一つなんだが、中々なもんだろ?」
「うん!すごい!!」
ベルの語彙力が乏しくなるほどの星空が夜空いっぱいに広がっていた。
そこらに生えた木々のせいで地平線の果てまでの星空とはならないが、木々の隙間の僅かな空間から見え隠れする様々な色の星がミステリアスな雰囲気を演出している。
この世界に生まれ落ちてから一度も夜空を見たことが無いベルにとって、またフェゴールにとっても新鮮で心惹かれる光景であった。
夜空から降り注ぐ無数の光の中もっと沢山の星を見ようと、木にぶつからないように立ち位置を変えつつ首を振っていたベルは奇妙な物を発見する。
「月が…二つ…?」
ベルの目線の先には黄色く大きな月の横に青い月が並んでいる光景が見えた。
その月をみた途端にベルの中に何とも言い難い感情があふれ出しそうになっってしまった。
何故二つの月が奇妙に見えたのか?
何故二つの月に違和感を感じたのか?
何故いつもより多い月に寂しさを覚えるのか?
「何で……何で月が…一つじゃないの…」
そう口から漏らしたベルはその場にぺたんと崩れ落ちてしまった。
「ッベル!?」
「おい!?どうした!?」
「うわぁぁん!」
ベルの気が付かないうちにフェゴールとジャンが声をかけてくれるが、ベルに返事をする余裕があるはずもなく、ついにはその場で泣き崩れてしまった。
「…フェゴール、ベルの事は任せていいか?ベルの声に反応して夜行性のモンスターが来るかもしれないから辺りを警戒しておきたいんだが。それにベルを落ち着かせるには赤の他人より『お姉ちゃん』の方が適任だろ?」
別の種類のモンスターである可能性が高い二人は血の繋がっていない姉妹である可能性も高いことはジャンも承知の上である。
そのうえであえて『お姉ちゃん』を強調したのは、二人の関係がそれほど深いものだと直感したからに他ならない。
「…分かったわ、そっちも気を付けて。」
「任せろ!」
短く返事を返したジャンはすぐに木々の影に吸い込まれるように走っていった。
静かな樹海の中で二人っきりになったベルとフェゴール。
フェゴールは、いつかと同じようにベルを後ろからゆっくりと抱きしめたが、それ以上は何もせずベルの気が済むまで泣いてもらおうと思っていた。
下手に泣き止ませるよりは最後まで泣いていた方が感情の整理がしやすくスッキリするからだ。
「ひっく…お姉ちゃん…」
しかしベルはそれだけでは満足できないようで涙目のまま振り向いた。
「なぁに、ベル?」
「もう少し強く…ギュってして…」
「…ふふ、分かったわ。」
今日の夜は、もう少しだけ長くなりそうであった。
圧倒的ッ…表現力不足ッ…




