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35、【怠惰】と魔術師ギルド

小悪魔的な薄笑いを浮かべてそう言い放ったタージャに3人の視線が集まる。


「研究ってどういう…ああ、魔術師ギルドか。」

「そう、あそこなら、大丈夫。」


人間たちはそれぞれの職業や研究内容を一つの分野にまとめてギルドという集団を作り上げている。

その中でも魔術師ギルドは魔法使いの育成を始め、新たな魔法の開発、既存の魔法の改良、魔道具の開発などなど、この世界において無くてはならない研究を主な活動としている。


現代社会における電気や科学の研究と、そこから派生する電子機器の開発と例えれば魔術師ギルドの貢献度は相当なものであると想像しやすいだろう。


そんな魔術師ギルドの活動の一つにモンスターの研究も含まれているため、彼らにネームドモンスターであるベルとフェゴールを引き渡してしまおう、というのがタージャの案であった。


「魔術師ギルドなら儲かっているだろうし報酬もうまそうだな。」

「研究を担当しているギルド員は高ランクの実力者だけを集めているって聞いたことがあるんだな。あの二人がもし暴れたとしても魔術師ギルドの精鋭に囲まれている状況では勝てっこないんだな。」

「そういえばトントンは魔術師ギルドで修行してたから、そういう話は詳しいんだったな。」

「えっへんなんだな。」


身を反らし大きく胸を張るが、それ以上に張ったお腹のせいで何とも格好がつかない。


「遠征中でもその腹は引っ込まないのか…」

「このお腹は長年積み重ねてきた勲章なんだな、簡単には引っ込まないんだな。」

「自慢するところじゃないだろ…」


プヨプヨと揺れ動く腹を突きながら苦笑いをするジャンとまんざらでもない表情のトントン。

そんな二人の様子に飽きてたテムジンが軽く咳払いをして話を戻す。


「こほん、魔術師ギルドに一枚噛ませるのであれば彼女たちを町に連れていくこと自体は問題ないでしょう。しかし、ひたすらに無邪気な笑顔を振りまくベルを見ていると…何というが…罪悪感が…」

「ああ…言いたいことは分かるぞ…」


ここまで見ている限りでは怪しい素振りを見せていない二人の少女。

すぐにはしゃいだり落ち込んだりする様子は人間の子供の行動と何も変わらないベルと、危なっかしい行動をとる妹に悩まされつつも何だかんだで付き合ってあげるフェゴール。


左右の目の色がそれぞれ違ったりツノが生えていたりするが、何事もなく会話し笑いあっている様子を見る限り彼女たちが凶悪なモンスターだとは到底思えない。


実際にこの世界には害の無いモンスターというのは存在しているし、その存在は人間も把握している。


顔と胴体が一体になったまんまるボディーが可愛らしいマルウサギ。

二足歩行のウシ型モンスターの中では大人しく、美味しい牛乳を搾乳することが出来るホルスタウロス。

自身の体毛がとてつもなく長く重たいせいでゆったりとしか動きしか出来ないヘビーシープ。


なお、スライムは一応体当たりを仕掛けてくるため有害なモンスターとして分類されているが、有害なモンスターの中でも最弱である彼らは一般的には無害だと思われているほど弱い。


この他にも多くの無害なモンスターが存在しているが、ベルとフェゴール程の知能を持つ人型モンスターが無害であったことは一度もない。

今は可愛い顔をしているだけで町に入れば本性を現すかもしれないが、それでも今の彼女たちはただの仲のいい姉妹にしか見えない。


そんな彼女たちを魔術師ギルドに連れていき報酬を貰うというのは、正義感だけでドラゴンに立ち向かうような正義感を持つ彼らが出来るはずも無かった。


「とりあえず話をまとめるぞ。」


いつになく真剣な声色になったジャンの様子を察し、続く言葉を待つ3人。


「方法はともかく今回のドラゴンの件を手伝ってくれた。その礼として町に案内するくらいは安い物だと俺は思うんだ。しかし町やギルドから見れば彼女たちは厄介者でしかない。だけどネームドモンスターである彼女たちを魔術師ギルドに研究してもらうと言う名目があれば無理矢理にでも納得させることが出来るだろう。あと魔術師ギルドの研究がどんなことをするかは知らないが、彼女たちが嫌がらない程度の内容とスケジュールを組んでもらえるように頼んでみるさ。」


この世界の中核を(にな)っていると言っても過言ではない魔術師ギルドであっても、意思疎通ができるモンスターを相手に研究できる機会などあるはずもない。


そもそもダンジョンに存在するモンスターを倒すと光の粒子となり空中に散っていくためドロップ品として出現した素材や肉しか残らない。

野生に存在するモンスターなら死体を解剖することが可能ではあるのだが、野生化するモンスターは何故か獣型や知能の低い人型のモンスターが多いため、知的な人型モンスターの研究が出来る機会は稀である。


そのため魔術師ギルドが彼女たちに無理強いを迫ることはジャンでも容易に想像できてしまったため、研究の内容とスケジュールに口出しすると言い出した、という訳である。



ベルとフェゴールのために知恵を絞って一番可能性のありそうな案をひねり出した。

そんなジャンに対してテムジンはどこかニヤニヤした表情で口を開く。


「なるほど、つまりベルが可愛くて仕方がないのですね?」

「ッブブゥー!!」

「なるほどなんだな。ベルから目を離せないから町まで付いてこさせようとしているんだな。」

「ジャン、もしかして、ロリコン?」

「ッだあぁぁ!!ちげぇよ!!」


ジャンの真剣な声色は長くは続かなかった。

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