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33、【怠惰】に何でもするって言ったよね?

国家機密は勿論のこと冒険者の能力や道具について本人に聞くことはご法度(はっと)なのだが、どうしても口伝いに広がってしまうのは止めることはできない。

人の口には戸が立てられない、と言うことである。




「ところで、この鱗を町に持って帰るって言ってたけど一枚で大丈夫?何ならもっと貰って来るけど?」


地面に突きささった鱗を指さしながらトントンとタージャに問いかけるが、それに答えたのは先ほどまで遠くで言い争っていたジャンとテムジンだった。


「いやいやいや!こんな上等な、それどころか伝説級の素材をタダで何枚も貰う訳にはいかないっての。それにこの一枚だけでもかさばっているからな。」

「私はいくらでも欲しいのですがね、ジャンの言う通りもう持てないので仕方がありません。」

「あ、二人とも、もう喧嘩は終わったの?」

「あの程度は喧嘩に入りませんから。」

「そうそう、ただのテムジンの暴走──」


ドスッ!!


「──ッいってぇ!」

「あなたの不用意な行動のせいでしょう、ジャン?」

「あはは…」


仲がいいのか悪いのか、そんな二人の様子にベルは乾いた笑いを浮かべるしかなかった。

そんなベルに対してジャンはこれ以上ない笑顔を向けながら感謝の意を伝える。


「まぁ、なんにせよ助かった。まさかあんな方法で取ってくるとは思わなかったが終わりよければすべてよし、だ。今日のお礼って言っても俺たちに出来ることは限られるだろうが、何かあったら俺らを頼ってくれて構わないからな。」

「ジャンを頼る…うーん、あ!そうだ!頼みたいことがあるんだけど。」


少し考え込んだ後にパァーッと明るい顔でそう切り出したベル。

コミカルに移り変わるベルの表情は見ていて可愛らしい物ではあるのだが、何故かフェゴールは、とてつもない嫌な予感を感じて背筋を凍らせていた。


「お、なんだ。何でも言ってみろ。ただし叶えられるかは別だぞ?」


突如脳裏に浮かんだ『ん、今なんでもするって言ったよね?』と言う謎の言葉を飲み込みつつ、ベルは本来言うつもりだった言葉を発する。


「私たちを町まで連れて行ってくれませんか?」

「「「「はぁ!?」」」」


思わず身を乗り出しつつ驚く四人、そう、今回驚いたのは()()である。

一人だけ声をあげなかったフェゴールは驚いていない訳ではなく、ベルの言葉を理解しようとして硬直してしまっていた。

体は動かないが頭の中では脳みそをフル回転させ、ベルの思考を読むという無謀な行為を試みていた。


(町に行きたい…っていうのは興味本位もあるんでしょうけど、多分今日の朝に話に上がった食糧問題を解決するための案かしら?作物を持ってきてもらうのもアリだけど自分の目で確かめるのなら自分が町に行くのが一番だから…ってことかしら?)


もちろん興味本位が100%であり、その他の理由は含まれない。


(彼らに私たちのことを説明してもらえればモンスターの私たちでもある程度自由に行動できるようになるかもしれないし、そうなればわざわざツノやオッドアイを隠す必要もない。むしろエンシェントドラゴンが出現したことを目撃して鱗を入手するまでの経緯(いきさつ)を知っている関係者である私たちが居ればあの四人も報告しやすいでしょうし、そう考えると相手側にも旨味のある話なのかしら?)


考えている事は多少の願望が含まれているものの、可能性としてはあり得る範囲であろう。

ただしベルはそこまでの深読みをして提案したわけではない、繰り返すがただの興味本位である。


(町まで十日の距離もマーブルウルフに乗れるようになったおかげで、スタミナの方はきっと問題ないはず。食料や水もストレージリングに格納すれば消費期限すら無視できる。もし途中で無くなっても私の転移魔法でベルと一緒にダンジョンに戻って補充すればいい。野営のためのテントや寝袋が無いのは……夜になる(たび)に転移で戻ってくる?流石に怪しいかしら?)


そう思いつつも決定権はベルが握っている(とフェゴールは思っている)ため、しっかりと考えて選んだのであれば町に向かうのも問題ない。

もちろん本人はそこまで考えていた訳ではないのだが。


(あ、そういえば…)


少し気がかりな事があったのでそっとベルに近づいて小さな声で耳打ちをする。


「ベルがダンジョンに居ない間、ここの管理は誰がするの?」

「んー、キングさんがやってくれないかな?」


そういいながら視線を森の中に移すと、木々の隙間に隠れたキングさんことスケルトンキングの姿を捉えることができた。

一定の距離を開けてこちらを見ている様子から、一連の話の流れを掴んでいることを前提にスケルトンキングに小声で話しかけるベル。

ベル自身はあまり意識していないがダンジョンコアの能力で召喚したモンスターであるためか、目で見える程度の距離ならば念話のように相手の脳に直接会話を伝えることができるようだ。


「そういう事なんだけどキングさん、ちょっと手を貸してくれない?」


その問いかけに右手をサムズアップして答えたスケルトンキングは、その右手を左手で掴んで取り外して、ベルの方に渡すような仕草をした。


「……違う、『手を貸す』ってそういう事じゃないのぉぉ!!」


小声で叫ぶベルを見ながら、スケルトンキングはカタカタと笑っていた。

よく見るとジャンは『何でもする』とは言ってません。

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