32、【怠惰】とウワサ
「二人とも~、大丈夫ですか~!」
大声をあげながらテムジンが、その後ろに続いてタージャ、フェゴール、トントンが駆け寄ってくる。
しかし、その声の内容とは裏腹に三人の視線は地面に突きささったままのエンシェントドラゴンの鱗に集中していた。
「テムジン、この鱗スゲーんだ!俺の攻撃でも──」
ポカッ!
「──ッ痛ってぇ、何するんだよ!」
「『何をする』はこっちのセリフです!安々と手に入ったとはいえ貴重な鱗なのです。それを硬度を確かめるために攻撃するなんて、あんな鑑定方法が許されるはずないでしょう。いいですか、通常のドラゴンの素材であっても一生のうちに見ることが出来るかどうかの代物なのです。噂ではありますがドラゴンの素材は最高機密として国庫に秘蔵されるだとか、ドラゴンの内臓一つで小国を買収できるほどの価値があるだとか、ドラゴンの素材を語るためにはどうしても国単位になってしまうのです。ましてやここにあるのは伝説や神話でしか話を聞かないエンシェントドラゴンの素材!それをいきなり攻撃などと──」
ポカッ!ガスッ!ドスッ!
「──分かった分かった、十分すぎるほど体で分かったから、その大盾で殴るのは止めろぉ!」
「この鱗、キレイ、とても。」
「なんだな。」
「ちょ、ちょっと!向こうの二人は止めなくていいんですか!?」
「問題ないんだな、痛いのはジャンだけなんだな。」
「ジャンさんには大問題でしょ…」
『蒼天の探求者』の中では特に珍しくはないらしい光景を横目に見ながらも、タージャとトントンの目線の中心にはエンシェントドラゴンの鱗が輝いていた。
見る角度によって色彩を変えるため本来の色が分からないというミステリアスさは、この世界のあらゆる芸術品を横に並べてもなお存在感を放ち続けることだろう。
「でも大きすぎてカバンの中に入らないんだな。」
「マジックバック、欲しい。」
「なんだな。」
「ん、マジックバックって何ですか?」
二人の何気ない会話に聞きなれないアイテムの名前が登場したので、とりあえず質問してみたベル。
興味本位はもちろんだが、装備品であればタダ同然で出せるベルにとってこういった情報は意外に役立ったりもするのだ。
「マジックバックはその名の通り魔法のカバンなんだな、その外見以上にいっぱい収納できて食べ物も腐りにくいらしいんだな。」
「マジックバック、貴重な魔道具。」
「そうなんだな。数自体は多いけど皆が欲しがる便利品だから、どうしても値段が高くなるんだな。」
「へー。」
聞いている限りではとても便利そうなアイテムだが、装飾品ではなく魔道具みたいなのでベルでは出すことが出来なさそうであった。
「そうそう、マジックバックよりも強力なアイテムの噂もあるんだな。」
「マジックバックよりも強力?ってことはもっとアイテムが入るの?」
「それだけじゃなくて中に入れた肉や魚がいつまでたっても腐らないらしいんだな、まるで時間が止まっているみたいなんだな。」
「時間が…止まる?」
「あくまで噂なんだな。見た目もカバンじゃないから目立たなくてあまり情報が無いんだな。」
「カバンじゃないんだ。じゃあどんな見た目?」
「それが指輪らしいんだな。」
「指輪!?」
割と適当に相槌を打っていたベルだったが、指輪と聞くや目を覚ましたかのように思考が覚醒した。
魔道具とはいえ指輪であれば装備する物である可能性があるため、ベルでも召喚できる可能性があるのだ。
「それで、そのアイテムの名前って分かるの?」
「うーん、オイラは忘れちゃったんだな。」
首とお腹を揺らしながら考え込んだが思い出せなかったようだ。
その横でタージャがゆっくりと声を発する。
「…ストレージリング。」
「え?」
「無限とも言われる、異空間の、保管庫。」
「無限の倉庫…それって本当なんですか?」
「あくまで、噂。」
時間が停止する無限の倉庫、そんな未知のアイテムにワクワクするベルを少し離れた位置から眺めるフェゴールは心の内側でこう思っていた。
(国の最高機密とか情報の少ない魔道具の噂話程度なのに情報が多すぎるでしょ!)
鱗が大きすぎて運べないとはいえ、鱗のある位置での会話なのでエンシェントドラゴンの足元で会話してることになってるんですよね…
ガバガバですが、意外に言わなければバレなかったのでしょうかね?




