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31、【怠惰】とドロップアイテム

「それでジャン、これからどうするのですか?」


数分後に落ち着きを取り戻したテムジンがジャンに尋ねる。

ドラゴンの正体が判明したとはいえ、エンシェントドラゴンに接近した本来の目的が残っているからだ。


「…そういや最初と何も状況は変わってないんだよな。大樹海の中でエンシェントドラゴンが出たって言っても誰も信じてくれないだろうし、ギルドに信用してもらえるようにコイツの素材を手に入れるのは変わらない。」

「そしてモンスターではありますが一時的な協力者も居ます。何とかするしかないでしょう。」

「私の名前は『モンスター』ではなくフェゴール、あっちのマーブルウルフに乗っかているのがベルよ。あなた方も『人間』と呼ばれていい気はしないでしょう?」

「おっと悪かった、俺の名前はジャン。そこの大盾がテムジン、後ろの太った魔術師がトントンで「太ったは余計なんだな!」、フードの弓使いがタージャだ。よろしくな。」


お互いにビリビリとした緊張感は取れないものの利害上の協力関係が結ばれようとしていたその時、この場にふさわしくないほど可愛らしい声が両者の中に割り込んだ。


「もう、おねーちゃん!補助魔法かけてーって言ってるのに!と、えーと、その人たちは誰?」


補助魔法が来ないことを訴えにフェゴールに近づいたベルがようやく四人の存在に気が付き、首をコテンと傾けた。


「確か妹のベルだったか?俺たちの自己紹介はそっちの姉さんに聞いてくれよ、俺たちは早急にエンシェントドラゴンの鱗を町に届けないといけないからな。」


ベルの身長に合わせて腰を落としたジャンが口が悪いながらも優しく声をかける。

頭を撫でようとしたが、フェゴールの方から殺気に近い視線をぶつけられたので慌てて手を下げた。

子供の扱いに迷いがない様子のジャンを見たフェゴールには、ジャンがロリコン的な害悪に思えてしまったようだ。


そんな二人のやり取りに気が付くはずもないベルはうーんと考え込む。


「ドラゴンさんの鱗?多分頼めば一枚くらい貰えると思うよ。ちょっと待っててね。」

「「「「「は?」」」」」


『蒼天の探求者』の四人だけではなくフェゴールまでも頭の上に(はてな)を浮かべていたが、エンシェントドラゴンの方向へテクテクと歩いていくベルの姿が小さく見えるようになってようやくハッと意識が戻った。


「おいおいおいおい!あんなバケモノに会話が通じるわけないって!その前に耳が遠いだろ、物理的に!」

「…多分大丈夫だと思うわ。」

「何!?」


声のする方に首を動かすと、そこには全てを諦めたかのような顔を右手で隠して天を仰ぐポーズをとるフェゴールがいた。


「とりあえず追いかけてくる!」


そういって答えを聞かぬ間に飛び出していくジャン。

対してテムジンは苦笑いをしてフェゴールに話しかけた。


「なんだか慣れてますね。」

「慣れてないわ、諦めただけよ。」


スライムだけでダンジョンを防衛するような妹の奇行など気にするだけ無駄である。

見上げた空は今日も青かった。




対してベルはすでにエンシェントドラゴンの足元で交渉を開始していた。


「ドラゴンさん、鱗を貰えますか?え、大きさ?うーん、大は小を兼ねるって言うしできるだけ大きいサイズで…うん……真っすぐで平たくて…」


ジャンから細かいことを聞き忘れていたので、適当にソレっぽい鱗を指定していく。

ある程度要望がまとまったところで数歩後ろに下がるベル。


すると、ちょうどベルが居たあたりの場所に指定通りの鱗が落下し地面に突き刺さった。


「ウソだろ…本当に会話でどうにかしやがった。ってそういえばモンスター同士だから通じるところがあるのか…それとも…ブツブツ……」


若干現実逃避しかかっているジャンが何か言っているが、ベルの目は驚愕で見開かれていた。


(な、何であんなに柔らかい鱗がキレイに地面に刺さってるの!?)


『【怠惰】の烙印』の影響下にあるエンシェントドラゴンの防御力は0であり、先ほどまで戦闘経験の無いベルでも貫けるほど脆かった鱗が地面に刺さっている光景はなんとも摩訶不思議に思えた。

近づいて手で叩くとコンコンといい音が返ってくるし、試しに手元の長槍で突いてもビクともしない。

何ともあり得ない状況だが、ベルは自身の固有スキルである『【怠惰】の烙印』が原因だと仮定すれば辻褄が合うことに気が付いてしまった。

すなわち──


(ドラゴンさんの身体に付いている時の鱗は、ドラゴンさん自身のパラメーターが優先されて軟らかい…だけど身体から剥がれた鱗は()()()()()()()()()()だからパラメーターという概念が存在しない、だから元々のドラゴンさんの素材と同じ性能って事!?)


正しいとも間違いとも結論付けにくい予想ではあるが、目の前に硬い鱗があるのは現実である。

そこに正気に戻ったジャンが駆け寄ってくる。


「これがエンシェントドラゴンの鱗か…そらっ!!」


そういって突然自分の武器で本気の突きを繰り出すジャン、だが──


ガキンッ!!


ジャンの槍の先端は一切刺さらず、対してエンシェントドラゴンの鱗には傷一つ付いていない。


「ッ!想像以上の硬さだな、腕が痺れてくるぜ。」

(傷も付かないなんて、やっぱり本物のエンシェントドラゴンの鱗なの!?)


流石のベルも自身のスキルの抜け道の様な仕様を見てしまい、頭の中でチートという言葉がよぎらずにはいられなかった。

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