27、蒼天とバケモノ
いつもの倍くらい書きましたので、時間がない時は注意してください。
♢♦♢
突然だが、人が驚く様子は色々な表現で表されることがある。
そこにいたのは4人組の冒険者たちであった。
一人は腰を抜かしている。
一人は目を見開いている。
一人は開いた口が塞がらない。
一人は息を呑んだ。
驚き方はバラバラだが、その目線の先にあるものは皆が同じモノであった。
あまりにも巨大で、神々しく、何よりも今まで見たことがないドラゴンに似たモンスター。
そもそもドラゴンは淡い黄色の鱗の状態で生まれ、成体となった時期にはオレンジ色、エルダードラゴンとなった時期には赤色になり、エンシェントドラゴンは赤茶色というのが一般的に知られるドラゴンの姿だった。
なのに目の前にいるモンスターの鱗は純白で、光の当たる角度によって虹色に輝くのだ。
見た目自体はドラゴンに似ていなくはないが、それ以上のことはまるで分らなかった。
なにせこの4人組の冒険者ランクはDランク、一般的には初心者を脱却してすぐの成長段階にあるパーティであった。
そんな彼らがドラゴンなどという軍隊が動くレベルのモンスターの情報など、噂に聞く程度にしか知らないのは無理も無かった。
「…い……一体何なんだよ…あんなバケモノが突然……な…何もないとこから…」
腰を抜かしていたパーティのリーダーである男性の槍使い、ジャンが息も絶え絶えに言葉を絞り出す。
リーダーの割には4人の中で一番リアクションが大きく、彼の下半身はまだ地面にペッタリと引っ付いたままであった。
「…雰囲気だけであればドラゴンの一種でしょうか?しかし鱗の色があからさまにドラゴンのソレではないように思えます。大きさも伝承にあるエルダードラゴンやエンシェントドラゴンの類に近いでしょうか。」
「…おいおい、それってまるでアレが何のモンスターか分からないって言っているように聞こえるぞ…」
「はい、残念ですが全く見当が付きません。むしろあのサイズのモンスターで資料に載っていないなら新種の可能性の方が大きい位ですね。」
「テムジンが言うのならそうなんだろうな、クソッ!」
目を見開いていたのはパーティの壁役としても珍しい両手持ちの大盾を構えた男性、テムジン。
前衛ではあるにもかかわらずこのパーティの頭脳担当である彼が、目の前にいるモンスターの見当をつけることが出来ないのは今までに無い事だった。
なにせ、パーティの安全や連携のためではなく、自分の知識欲を満たすためだけに数多くのモンスターの資料を調べ上げた彼は、どんなマイナーなモンスターでも名前と特技を言い当ててきた。
そんな彼の弱点は【鑑定】に関するスキルや魔法を所有していないため、新種のモンスターに対しては特徴や弱点を知る手段が無い事であり、まさに今の状況がそうであった。。
「そそ…そんなことはどうでもいいんだな!はは…早くあそこを迂回して町にあのモンスターを報告するんだな!」
開いた口が塞がらなかったのは水魔法使いの男性、トントン。
冒険者や魔法使いのイメージには合わない太った体によってこのパーティで一番足の遅い彼が『早く』なんて言っているのには他のパーティメンバーも苦笑いを隠せないが、トントンの言っていること自体は筋が通っている。
この大樹海の中のモンスターが外に溢れ出さないように、それぞれの国ではサントのように町と防壁を配置している。
大樹海の周りに町が集まっているということは人もまた集まっているということだ。
そんな周辺の町に万が一にでもこの新種のモンスターが向かった場合、その町はどうなってしまうのか?
見た目がドラゴンに似ているのだ、攻撃手段や戦闘力もドラゴンに匹敵するのでは?
いや、テムジンは『大きさはエルダードラゴン以上』と言っていた。
ならば戦闘力もエルダードラゴン以上の、正真正銘のバケモノである可能性だってある。
本当にそれだけの戦闘力のあるモンスターならば一刻も早く町に報告をして、国軍を派遣してもらって、いいや、もしかすると周辺国全ての国軍と冒険者を総動員しなければならない可能性だってある。
それだけの戦力を動かすのに時間がかかるのは明白、だからこそ自分たちが少しでも早く冒険者ギルドにこの新種の報告を上げなければならないだろう。
だが、この一刻を争う状況でまさかの反対意見が飛び出す。
「Dランクパーティ、樹海の奥の新種、ドラゴンを超えうる脅威度……信じる?」
「「「うっ…」」」
先ほど息を呑んだ弓使い、フードを深くかぶった女性のタージャが客観的な意見を口にする。
流石に新人とは言えないが一人前でもないDランク、そんな彼らのパーティ『蒼天の探求者』が冒険者ギルドに報告をしたところで信用してもらえるはずがない。
「…じゃあなんだ?アレを黙って見過ごせってか?」
ようやく立ち上がったジャンは、タージャに鋭い目線を送る。
「そうは言わない、だけど無理、信じない。」
タージャもあのモンスターの異常性は理解している。
しているからこそ、正確な情報を伝えれば伝えるほど妄言のように聞こえてしまうのは安易に予想できてしまうのだ。
いや、今だ姿だけしか見ていないのに正確な情報もあったものではないのだが。
「テムジン、どうすれば信用してもらえると思う?」
「そうですね…例えばあのモンスターの素材があれば──」
「アレと戦うなんて無理なんだな!むむ…無謀なんだな!」
「誰も戦うとは言ってませんよ、あれほどの大きさのモンスターなら小さな鱗を寝ているうちに拝借することだって可能かもしれません。」
「どど…どっちにしたってアレに近づかないといけないんだな!」
「クソッ…」
自らの赤い髪を手でクシャクシャにしながらジャンは改めて目の前のモンスターを見やる。
周りの木々から頭一つどころか胴体まで突き出している巨体を眺めているといつの間にか、その巨体の周りに茶色のモヤが立ち上がってきたのを発見した。
アレは一体なんだと、手ごろな近くの木によじ登って確認すると──
「土埃……か…?」
あの巨体が動けば土埃くらい舞うだろうと思ったが、そういえばあのモンスターはまだ一歩も動いてはいない。
じゃあ何が原因なんだ?
あの近くで何が起こっているんだ?
あのモンスターの下で何かが…
…何かが、新種のモンスターと戦っている?
自分の突飛押もない発想に首を振りつつも再び考える。
冒険者であろうがモンスターであろうが、あのモンスターに攻撃を仕掛けている何かが居るのであれば素材のお零れにあずかれるかもしれない。
危険が生じるのは承知の上、むしろ素材を持って帰らずに自分たちの証言が通らなければ町単位、最悪は国単位まで被害が広がる可能性だってある。
木から降り周りに集まってきた他の3人の顔を順番に見やった後、ジャンは口を開いた。
「俺は…あの新種のところに行くつもりだ。」
「な…」
「だな!?」
「…」
驚愕の表情を浮かべる3人、そしてジャンが更に言葉を繋ぐ。
「俺らのランクでどうにかなるような危険度は遥かに超えている。それどころかクエストですらない、新種発見の報酬金は出るかもしれないがそれだけだ。だけど俺はやるつもりだ。だから…」
ここで一旦言葉を区切る。
いつの間にか体が震えていたが、それをどうにか押し込めて言葉を絞り出す。
「俺に手を貸してくれ!!どうしようもない相手なのは分かっているが──」
「ジャン、あなたはバカですよ。」
「…テム…ジン?」
「何かあれば多数決というのが私たち『蒼天の探求者』のルールでしょう?一人で盛り上がらないでください。」
そう言いながらパーティの中心に移動し、周りを見渡しながオーバーな手振りで声をかける。
「さぁ、あの新種のモンスターの元に向かうのに賛成するような、無謀な命知らずはこのパーティに何人いますか?」
真っ先にテムジンの筋肉質な腕が空へと伸ばされる。
それは、大盾を素早く構えることで他の3人を守ってきた力強い手だった。
他の3人は目を丸くしていたが、しばらくすると各々が自分の答えを口にし始める。
「おお、オイラはすごく怖いんだな。だだ、だけど、皆が一緒じゃないともっと怖いんだな。」
トントンの脂肪によってブヨブヨした腕が空へと伸ばされる。
それは、汗まみれの杖を握りしめ魔法を放ってきた軟らかい手だった。
「冒険とは、険しきを、冒すとこ。だけど、ジャン一人には、やらせない。」
タージャの女性らしい細腕が空へと伸ばされる。
それは、細いながらも弓の弦を引き続けてきた美しい手だった。
「さあ、この通り私たちの心配なんてする必要は無かったのですよ。」
「ほほ、ほら、早く上げるんだな。うう、腕が疲れてきたんだな。」
「あとは、ジャンの、挙手だけ。」
「…ははは、やっぱりお前らには敵わねーわ。」
ジャンは自分の右手を力強く握りしめ、空へと突き出した。
それは、他の3人をパーティに誘うときに差し出した無骨な手だった。
「これで全員が賛成だな。さっさと皆であのバケモノの素材を町まで持ち帰ってやろうぜ!」
「先走ってはいけません、帰るときは必ず全員で生還するんですよ。」
「そそ、そうなんだな。ジャンだけにカッコいい事はさせないんだな。」
「斥候、わたしに、まかせて。」
空を掴むが如く真上に突き出された4人の手の先には、まさに蒼天と言うべき雲一つない青空が広がっていた。
通りかかる冒険者が主人公っぽくなる現象は治りそうにありません。




