25、夢の町のギルドマスター
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【怠惰】が新たに作り上げたダンジョンから、東方向に約十日ほど離れた大樹海と平原の混ざりあう境目に『夢の町』と呼ばれる拠点があった。
未開拓の大樹海に金と名声を夢見る者どもが薄暗い木々の中に、まるで夢のように消えていく町。
その町の名前は『サント』。
サントの名物と言えるものが、ガンギルオン大樹海とサントを分かつように連なった外壁の門の役割も兼ねているレンガ造りの強固な施設、『冒険者ギルド・サント支部』である。
なぜ門と冒険者ギルドが一体になっているかといえば、一言で言えばガンギルオン大樹海のモンスターから町だけでなく、自国である『アルレイヤー王国』全体を守るための処置であった。
単純に門を兵士に守らせただけではモンスターを止めることは難しい。
それは、兵士は主に対人戦闘に特化していることが多く、モンスターとの戦闘は不慣れだからである。
その逆で冒険者は主に対モンスター戦に特化していることが多いため、モンスターの襲撃が多い場所では兵士と冒険者を混ぜた編成で門を守ることがあるのだ。
そんな冒険者たちの管理と育成、場合によっては緊急招集も可能である冒険者ギルドを最終防衛ラインとして配置している、というのがこの世にも不思議な門と一体になった冒険者ギルド・サント支部の成り立ちなのである。
そのギルド内は朝のピークの時間を超え、人がまばらで落ち着いていた。
「『忘れられた黄金』たちがドリーマーズとして出発してからすでに40日か…」
スキンヘッドの大男が自らの顎をかきながらムムムと考え込んでいた。
彼はこの冒険者ギルド・サント支部のギルドマスターであった。
人の少なくなっている隙に、カウンターを担当している受付嬢の二人と雑談をしていたのだが、その際にふっと思い出して口から漏れだしたのが先ほどのセリフだった。
この町から遠征隊として出発したBランクパーティーが今だ帰ってこない。
彼らが遠征隊である以上、決まった日にちに帰ってくるようなことはあり得ない事ではあるのだが、今回は運悪く別の事情も重なっていたため楽観視は出来ない状況だった。
「ここ一週間で新たなダンジョンの発見数が増加してるです。『忘れられたなんちゃら』も、そんなトラブルに巻き込まれた可能性があるです。」
「ヤベーやつです。」
「名前通り忘れてやるなよアン、『忘れられた黄金』だ。」
拙い言葉使いながらも『忘れられた黄金』の帰りが遅くなっている理由を推測しているのが、このギルドの双子の看板娘……もとい双子の看板受付嬢の姉の方、アン。
そして語彙力が乏しいのが妹の方、ミツである。
二人とも顔では見分けが付きにくいので(というよりギルドマスターが見分けが付いていないので)色違いの冒険者ギルドの制服を着ており、赤がアン、青がミツとなっている。
この会話はカウンターの奥で行われているが、話の内容自体は機密でも何でもないため普通のボリュームで会話している。
そのため壁際のテーブルで、エール片手に談笑していた二人組の冒険者がちょっかいをかける為か、はたまた暇つぶしの為かイスの音を立てながら立ち上がった。
「やっぱりドリーマーズなんてよぉ、身の程も知らずに金を稼ぎたいだけの、ろくでなしの集団ってことだろ?俺たちみたいに普通にクエストをこなしているだけでも十分贅沢できるってのによぉ。」
「そうよねぇ~、一攫千金とかロマンとか言っちゃってるけど結局ドリーマーズじゃなくて只の夢見がちよねぇ~。」
「口が悪いぞ!!トリル、ソフラン!!」
尖った目で悪態を付く男性冒険者のトリル。
胸元がたわわで、ねっとりと絡みつくように詰る女性冒険者ソフラン。
たった二人という人数の少なさにより人数頭の報酬を多くするという選択肢を取った珍しいCランクパーティ、『届かぬ楽譜』を名乗るコンビであった。
「大体アンちゃんが言う新しいダンジョンってのも今のところ全て町の近場に出現していて、発見したのも警備や採取のクエストに就いていた冒険者って話だろ?」
「逆にドリーマーズが発見した遠方のダンジョンなんて~、難易度が高すぎて誰も近づかなくなった翠玉の地下渓谷くらいでしょ~?」
「確かにこの町ではドリーマーズがダンジョンを発見した事例はそれだけだ。しかし、新種のモンスター素材や新たな採掘ポイントの発見など、多くの功績を積み重ねている。」
「成し遂げた例はごく一部です。むしろ暫定死者の方が多いです。」
「ショボンです。」
「お前らはどっちの味方なんだ!」
ひと昔前にはドリーマーズという役割に、その名の通り夢を抱いた冒険者が大勢いたそうだ。
それが廃れてしまった理由など簡単、新しい何かを見つけなければ元が取れないからである。
ただの嫌味に聞こえるトリルとソフランの言い分だが、その裏には『これ以上有能な冒険者に消えてほしくない』という思いが込められているのは、付き合いの長いギルドマスターだからこそ分かっている。
だが遠征隊という役割はアルレイヤー国の王命であり、一つの町のギルドマスターごときに覆せるものでもない。
「ならばドリーマーズがどの程度の功績を上げればいい?」
話の流れがこれ以上重くならないように、やんわりと話題をそらすギルドマスター。
そうだな、と考え始めるトリルは先ほどまで飲んでいたエールのアルコールが回っているせいか、突拍子のない冗談を言う。
「んじゃ、非好戦的で戦わずに素材をはぎ取らせてもらえるエンシェントドラゴンとかどうだ!」
「あら~、確かにそんなヘンテコなドラゴンが見つかればドリーマーズも捨てたものじゃないわね~。」
この世界のドラゴンは若い個体一匹でも国が総力を挙げて対峙するほどの災厄である。
そのドラゴンが幾多の年月を経て成長する過程で、おおよその年齢によって呼び名が変わっていく。
卵から生まれたばかりの『ドラゴンパピー』。
若い個体の『ヤングドラゴン』。
成体した個体の『ドラゴン』。
何百年単位で成長し続けた個体の『エルダードラゴン』。
そして、何千年単位の時を生きながらも全く衰えることなく成長し続ける伝説上の災厄、それが『エンシェントドラゴン』である。
ドラゴン種は基本的に年月が経てば経つほど永久に成長し続けると言われているため、多くの場合はドラゴンパピーの段階で精鋭部隊が送り込まれるのが基本である。
そのためエルダードラゴンですら伝説やおとぎ話に出てくるようなモンスターであり、エンシェントドラゴンと呼ばれるようになる条件である幾千もの時の間、ドラゴン種が成長し続けることが出来るかなど誰も知る由はない。
「いや、流石にそいつはあり得ないだろう。そうだな、アンは何かないか?」
「私も考えるですか?」
「なんとです!」
予想以上に面白そうな話になってきたのをこれ幸いと、その勢いのまま受付嬢に振ってみるギルドマスター。
振られたアンもこの無茶ぶりを考えるのは楽しいらしく、たまにいい笑顔になりながらしばし思い悩む。
なおギルドマスターがアンだけに話を振ったのはミツが満足な会話をしているところを見たことが無いためであり、決して無視したわけではない。
「なら珍味が食べたいです。」
「ウマウマです。」
何かを期待したような目で答えるアン。
ちなみにアンは食事に関してはどちらかと言えば質より量という考え方であり、この町の食堂で注文できる大盛りメニューはどれも一人で完食できる。
ある意味で一番、珍味を必要としないタイプの大食い娘なのである。
そして双子であるミツの食欲も言わずもがなであった。
「ほほう珍味か、確かに良い食材は物流を変える。トリルよりは現実的だな。」
「ハッ、現実的なドリーマーズって矛盾してるじゃねーかよ。」
「そうだな、エンシェントドラゴンなんてものを信じている奴のほうがよっぽど夢見がちだよな、ん?」
「な~ん~だ~と~!」
こうしていつもの騒がしい風景へと戻っていくのがこのギルドの日常であり、トリルやアンの発言はいつも通りの冗談として流された。
この出来事から数か月後のギルドマスターは静かに語る。
『あの場で「俺の彼女が森の中で見つかるように」と言っていたら叶っていたのでは?』と。
ベル「アンミツにトリルにソフラン…音ゲー絡みの名前が多かったね。」
作者「いや~、やっぱ、アルレイヤー名国なんで。」
フェ「そのネタはマズいですよ!!」




