198、新米戦:対峙
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「ねぇベル、本当にその作戦で行くつもりなの?ベルの考察は間違っていないと思うんだけど、それでもベルが前線に立つ必要なんてないんじゃ…」
「もっと安全な方法もあると思う。でも最後くらいは私も役に立たなきゃって思ってね。ライトノベルを読みながら待ってたら勝っても負けてもかっこ悪いじゃん。」
そう言う後姿は小さいが、大きな決意によってピンと伸ばされており覚悟と緊張がうかがい知れる。
周囲は一見テーマパークのような外観だがまごうことなきベルのダンジョン、そのメインストリートとでも呼べそうな広めの石畳が敷かれた通路に二人は立っていた。
片方はこのダンジョンの主としてか、もしくはただ単純にゲームに勝ちたいがために自ら前線にやってきたベル。
もう片方はそんなベルが心配で後を付いてきた血のつながりの無い姉、フェゴールであった。
「大丈夫だよ。私のゲーム脳が間違いないってささやいてるから。」
「空耳や幻聴じゃないといいけど。」
──あの後、ベルはさらに思考を重ねた。
固有スキルの説明文だけではなく新米戦でのモロハの行動、さらにこの世界の常識やダンジョンコアとしての知識なども総動員してなけなしの知能で何か可能性がないかと頭をフル回転したうえで、ようやく納得のできる答えを得たのだ。
すなわち、無限の攻撃力をたたき出すモロハの刀の謎とその対処法についてだ。
その時の集中力たるやケットシーがベルの顔をペシペシ叩いても気が付かなかったほどであったという。
「……来たよ。」
小さく強張った声でベルが来客の訪問を告げる。
ベルたちの立っている場所とモロハの間にはテーマパークの入場口がある。
比喩などではなく、モロハの方から見れば正面方向にクルクル回る棒で遮られたザ・テーマパークの入場口だけではなくチケット売り場やお土産屋さんまで並んでいるのが見て取れるはずだ。
その傍らで小さく佇む迷子センターがベルのダンジョンの最奥に続く快速特急なのだか、目の前にベルがいるこの状況で脇見をするモロハではない。
この視線誘導もベル本人が前に出てきた理由の一つである。
「お姉ちゃん、準備はいい?」
「言われるまでもないわ。」
僅かな時間だが視線を交差させて互いを確認しあう。
一瞬で命を刈り取る一撃を持つモロハと対峙する緊張感が少しだけ霧散した気がした。
「それじゃあ行くよ!3…2…1…ゼロッ!!」
ベルの掛け声とともに二人は踵を返して全力で逃げ出した。