189、新米戦:モロハと刀
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一度も見たことが無いはずの光景がどこか懐かしく感じる、もしくはどこかで見たような覚えがあるような気がする。
それらの不思議な感覚は既視感、もしくはデジャヴと呼ばれる。
「まぁ、一回通った道なんだから既視感があって当然なんだけどね。」
「…ん。」
やや蒸し暑い気候に並び立つ木々、足元は湿気で柔らかくなった土で覆われており時折植物の根や蔓に足を取られそうになる。
新米戦において最後のダンジョン攻略となるベルのダンジョンに向かう道筋は、当然ガンギルオン大樹海の環境がそのままくり抜かれていた。
『ラビリンスハート』の四名が数日前から、他の冒険者仲間たちと昼夜を共にし協力しながら進んだガンギルオン大樹海。
しかし、今から向かう先はそのかつての仲間であるベルとフェゴールが居るのだ。
「そういえばベルと最初に合ったのっていつだっけ?」
「…どら焼き。」
「カレーパンっスよ!受付の二人がベルのカレーパンを欲しがった時の特別依頼で悪い冒険者に追われている所を助けたっス!」
「い…今思えばモロハとベルは二人とも、誰も知らないような事を色々知っていたり、逆に一班常識のような事を色々知らなかったり、本当に不思議な雰囲気の女の子だったよね。」
「色々知っているっていうのはどら焼きとかカレーパンっスか?」
「あとカタナ…だっけ、その武器?それだって他では一度も見た事無かったから。」
女性同士の会話というのは何かと話題がコロコロと変わりがちなもので、ベルとの出会いの話をしたと思いきや、あっという間にモロハの刀にまで話が転がっていった。
「確かに他所では見ないわね。普通の剣は形が違うって言っても大体長さと重さが違う程度よね?」
「ミントちゃん、流石にそこまで単純じゃないと思うよ。私も剣を持ったことが無いから分からないけど…」
「それでもモロハのやつみたいに細くて曲がった剣は見たことないわ。モロハ、剣が曲がっているのって何の意味があんのよ?」
「…剣は叩き切る、刀は切り抜く。曲がっていると振り抜きやすい。」
「うーん、分かる、バニラ?」
「分かるような分からないような……モロハが言うと理論的じゃなくて直感的な話に聞こえるような…」
モロハが珍しく長めに喋ったものの説明不足感は否めず、魔法使いしかいないこのパーティでは説明を理解してくれる人は居なさそうである。
無表情ながらモロハからしゅんとした雰囲気が感じ取れた。
「それじゃあ、そんなに細い剣が折れないのは何か秘密があるんっスか?」
「それアタイも気になってたんだけど、どうなの?アンタ自身の技術がなせるスゴ技の類?それもの純粋に剣の素材がいいの?」
「……ん、秘密。」
ミント的には何気ない疑問をぶつけただけであったが、それに対してモロハはいつもより考え込んだうえで黙秘を選択した。