186、新米戦:深まる謎
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「という訳で、モロハの固有スキルの情報を持ち帰ってきたのニャ!」
「おー、ネコさんやるねぇ!…全然期待してなかったのに。」
「辛辣ニャ!?」
帰ってきて早々に漫才を始めるベルとケットシーであるが、言葉選びとは裏腹にその表情はニッコニコであった。
ケットシーを送り込んだ理由も漫才の延長のようなモノであったにも関わらず、しっかりと相手の偵察に成功したうえで生きて戻ってきたのだからこれ以上の喜びは無いのだ。
そんな浮かれムードの中でも冷静さを忘れないフェゴールが咳ばらい一つで二人の注意を引いた後口を開いた。
「それでこれからどうするの?最初はベルも二位で良いって言ってたけど、ここまで来たからには一応戦ってみるんでしょ?」
「当然ッ!ゲームとイベントでは手は抜かないよ。」
「手は抜かないのに二位で良いとは一体どんな手のひらをしているんだニャ…」
ともかく手のひらがクルクル回るベルは優勝を狙う気があるようだ。
「だったら早速作戦を練らないとダメね。ケットシー、モロハの固有スキルについて教えて。」
「りょーかいニャ!今から印刷するニャ。」
「そんな魔法あるんだー。」
「いや、手書きニャ。」
「印…刷…?」
言葉に詰まるベルを横目に意外なほどに達筆な文字を書き連ねていくケットシー。
スケートリンクの上を滑るように踊るペンが紙の下までたどり着くとそこで紙から離れた。
ちなみに紙とペンはどちらもベルのダンジョンで呼び出したメモ帳とボールペンで、この世界にある羊皮紙と羽ペンの組み合わせよりも圧倒的に書きやすい代物である。
「さぁさぁ、これがモロハの恐るべき固有スキルだニャ!」
「どれどれ…」
─『【諸刃】の一刀』─
・威力 ???(装備の耐久度により可変)
・MP消費 0
・クールタイム 0
自らの装備を犠牲にして相手に攻撃する【諸刃】の固有スキル
相手に対して非常に強力な攻撃を行うが、自身の装備している武器が壊れる
威力は装備している武器の耐久力を数値化したものが上乗せさせる
「へー、これがモロハちゃんのスキルかぁ。」
「メリットとデメリットがハッキリしているスキルみたいね。」
「そうだニャ。鋼鉄の壁やゴーレムを簡単に切っちゃう恐ろしいスキルだったニャ。」
「「…ん?」」
最初は納得したように紙を覗き込んでいたベルとフェゴールだったが、ドヤ顔で思い出を語るケットシーの言葉に違和感を感じた二人は目を丸くする。
「…そういえば『技能鑑定』で調べたって事はモロハがこのスキルを使ったって事よね?それも話を聞いた限りだと何回も使ったのよね?」
「そうだニャ。次から次に現れるゴーレムを相手にバッサリと一撃で倒していたニャ。」
「あー、つまりモロハちゃんは何本も武器を持っていて、それを何度も持ち替えながら戦っていたって事なのかな?」
「いや、モロハの武器は一本の刀だったニャ。」
「「じゃあ何でその刀は壊れてないの!」よ!」
「それはニャ……あれ、何でニャ?」
スキルの謎を解き明かすはずが、逆に謎が深まってしまったのであった。