178、新米戦:奮起するネコ
※ただし摩擦は考慮しないものとする
三人が壁をポカンと見つめる事しか出来ない中、モロハは改めて壁に近づき軽く手のひらで押した。
すると四角く切れ込みの入った壁が僅かにズレて、自重のままに奥に滑り落ちた。
「すご…こんなに切り口が滑らかで真っすぐに、それにあっという間に四回も切ってたなんて…」
「奥に向かって傾斜を付けて滑りやすくしたんッスね。」
「け、剣なんて持ったこと無いけどこれは神業だよ…」
「…大した事、ある。」
「アンタ以外に謙遜しないわね…」
腰に手を当てフンスと胸を張るモロハに呆れながらも、鉄の壁をあっさりと切り捨ててしまうその実力はもはや疑いようもないものであった。
その時ふとミントの脳裏にちょっとした疑問が浮かび上がった。
「全く、アンタが今までどのパーティにも所属してないのは生まれたばっかりのダンジョンコアだったからって言うのは分かったけど、そんな大した腕前でこんな新人たちの御守りを買って出てくれたわね。アンタの実力ならもっといいパーティにでも入れたんじゃないの?」
そう、ミントがモロハに声をかけたのはモロハが冒険者として登録している最中の出来事だったが、別にその場で初心者の集まりであるミントたちの勧誘を受ける必要は無かったし、自身の実力をその場で見せつければ他の優秀なパーティにも入る事だってできたはずである。
それなのに何故モロハたちを選んだのか、それは案外にシンプルな答えだった。
「…怪しい自分に、最初に声をかけてくれたから。…その、嬉しかった、から。」
「モロハ…」
「…じゃ、先に行ってくる。」
そう言うなりモロハは早足で壁に開けた穴をくぐり抜けた。
ちらりと見えた横顔は、少し赤色に染まっているようにも見えた。
♢♦♢
「ニャニャニャ…事件ニャ、大事件ニャ!!」
ラビリンスハートの面々が通り過ぎた少し後、四角くくり抜かれた壁を見ながら唸り声をあげているのはケットシーだった。
「材質なんてものともせずに刀を振るうその威力、それは固有スキルなんだからまだ分かるニャ!でもこの穴は四角ッ、四回切ったッ、つまり四回連続であのスキルを使ったって事ニャ!!」
この世界には連続攻撃を仕掛けるスキルも存在するが、少なくとも『【諸刃】の一刀』は一撃必殺の大振りを繰り出すスキルであると、【聖域】との戦いを見ていないケットシーも一目で見抜いた。
それを連続で使用したということは、すなわちクールタイムが0に等しいということである。
「…だけどニャ、希望的観測になるけどニャ、あれだけ強いなら弱点だってどこかにあるハズニャ。」
頭の中で考えをまとめて一息を入れると、無意識に逆立っていた毛並みが落ち着くのを感じ取れた。
「そうニャ、あのスキルにはきっと弱点があるニャ!それを見つけ出すのがきっと我の仕事ニャ!それさえ見つけて戻ればチビッ子も見返すに違いないのニャ!」
どこからともなく湧き上がる謎の自信と使命感を湧き上がらせながらケットシーは自分を奮い立たせるのであった。