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172、新米戦:小さな迷い

バニラの体調に気を使いつつ休憩を終えた四人は再び長蛇の列に混ざって歩みを進めていく。

既に入り口らしき場所が首を上に傾ければ見えるくらいに進んできたが、だからといってのんびりと進む理由にはならない。


いや、そういえば──



「あれ、モロハ?そういえばこの新米戦って制限時間って無いの?」

「……特にない。」

「四つのダンジョンが攻略したりされたりするんだから制限時間があったとしても数日単位じゃないっスか?」

「そ、それじゃあこんなに急いで疲れるまで歩き続ける必要って……」

「無かったわね。」

「無いっスね。」

「…ん。」

「そ、そんな~。」



必要ではない苦労をしていた事実にバニラは肩をガックリと落としたが、それ以外の三人は特に気にした様子は無かった。



「どっちみち遅かれ速かれあのダンジョンも攻略するんだから別にいいでしょ。善は急げってね。」

「……ダンジョン攻略って善なのかな?」

「ん、急にどうしたのよ?」



いつも通りの軽口で零れた何気ない一言、それにぽつりと小声で質問を返したバニラの表情は冴えない。



「ほら、今まではダンジョンを攻略っていうのはそのダンジョンにしか居ない特別なボスモンスターを倒す事だって、そうすればダンジョンが死んで新しいモンスターが湧かなくなるって教わってたでしょ?」

「そうね。そのダンジョンから手に入るお宝も手に入らなくなっちゃうけど、それでもこの世界から危険なモンスターを減らすために攻略するんだって聞いたわ。それが冒険者たちの使命なんだってね。」



ミントとバニラ、そしてココアの三人は田舎村の出身ではあるが冒険者を目指すために色んな人から話を聞いたようだ。

その中にはダンジョンに潜ったことのある現役冒険者の冒険譚(ぼうけんたん)なども含まれていたようで、その冒険者がやや膨張気味に語っていた内容を思い出しながら話を続ける。


ちなみに、危険度が高いと判断されたダンジョンは『翠玉の地下渓谷』のように放置される方が多く、逆に攻略しやすく危険度の低いダンジョンほど冒険者の名誉のために踏破されることが多いのが実態である。



「だけどダンジョンコアもちゃんと生きていて、私たちと同じように喋って、色んな性格があって、たまに【聖域】のような厄介な人もいるけどモロハみたいに強くて頼れる人もいて、そういう人たちが住んでいる家がダンジョンなんだって思うと実はダンジョンを攻略しようとする人間の方が悪いんじゃないかって思っちゃって……」



自分自身の中でもまとまっていない一つ一つの気持ちを整理するように自らの思いを頑張って言葉にしていくバニラ。

その顔は今にも泣きだしそうで、ダンジョンコアの事を本気で案じている事が伺える。



「私、冒険者になってモンスターをいっぱい倒してダンジョンを攻略したらみんなが笑顔になるって思ってたの。思ってた…のに、そうじゃないんだって、ダンジョンコアも…それにフェゴールさんみたいにモンスターだって生きているんだって。それが分かったら…どうするのが結局正解なんだろうって…考えすぎちゃって…あぅ…」

「バニラ……」

「バニラちゃん……」



確かに【聖域】は性格があまり良いとは言えなかったのでごく自然に戦うことができた。

だけどもし相手がモロハやベルだったら、自分たちは彼女たちに魔法を向けることが出来るのだろうか?


ミントとココアの中にも小さくない迷いが生まれ始めた。

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