17、【怠惰】のチート発覚!?
通路を数歩進んだ先、フロアの入り口はスライムが壁のようになっていた。
フロアと通路の間に透明な壁があるかのように直線的でツルツルな表面のスライムの壁に声をかける。
「マーブルウルフの所まで通して。」
相手がベルではないので口調が険しくなる。
このダンジョンのスライムは知能レベルが最大であるため、フェゴールの言葉を理解することができる。
声をかけた瞬間、目の前のスライムの壁が二手に分かれて道を広げていく。
「ありがと。」
軽くお礼の言葉をかけ、目の前に出来上がった道を進んでいきマーブルウルフの目の前で止まる。
マーブルウルフはフェゴールをちらと見るが、襲い掛かるだけの力が残っていないのか、そのままぐったりしている。
「お心優しいベルに感謝することね、─────ッ【軽傷治療】」
フェゴールの種族はマナドール、ゴーレムの亜種と言われているものである。
ゴーレムは土・岩・鉱石などに魔石を埋め込むことによって、命令通りに動かせる状態にしたモンスターである。
対してマナドールは人工的に作られた鉱石の人形に、魔石の代わりにマナバッテリーという魔力を蓄積できる構造を搭載した人造のモンスターだ。
本来ゴーレムというものは魔力で動いているにも関わらずMPが存在せず魔法を放つことが出来ない。
自らの身体に魔力をため込むことが出来ないため、空気中の魔力は身体を動かすことだけに使用されてMPとして蓄える余裕がないためである。
しかしマナドールに搭載されたマナバッテリーは一定量の魔力をため込むことが出来る。
これにより空気中の魔力が薄い環境でも長時間の稼働ができる他、その余剰魔力をMPとして魔法を使用することもできるのだ。
そんなフェゴールの手から淡い緑色の光が広がりマーブルウルフを包み込み、後ろ足にあったケガがゆっくりとだが塞がっていくのが見て取れた。
全ての魔法が使えるフェゴールがあえて下級魔法である軽傷治療を使用したのは、相手の様子を見ながら治療するためである。
回復魔法全般は射程が短く患部に触れていないと効果がない魔法も少なくはない。
今回使用している軽傷治療の射程は目の前の2~3メートル程度、この範囲でも回復魔法としてはかなりの広範囲なのである。
それほど近い場所に居て、足のケガが治った途端に襲われた場合はひとたまりもない。
そのため回復量が少なく比較的射程の長い軽傷治療を使い、相手が動けるようになる限界ギリギリまで少しづつ回復させることにしたという訳だ。
「っと、このくらいですね。」
ゆっくりと後ろ足を曲げ伸ばしながら確認している様子のマーブルウルフを見て軽傷治療を解除する、と同時に後ろの通路に向かって駆けだすフェゴール。
その動きに合わせてスライムがフェゴールを守るように展開し、逆に出口の方向の道を開いていく。
マーブルウルフの動きを止めていたスライムも撤収し、その場に残されたマーブルウルフが周りを見渡しながら状況を確認する。
やがて出口の方に向き直り外を目指し階段を上がっていくのであった。
「…途中で頭を下げてこちらに礼をしているように見えたのは気のせいでしょう。」
そう呟いたフェゴールはコアルームへと戻ることにした。
「あ゛り゛が゛と゛ー、フェゴールぅぅぅ。」
どのような発音をすれば『が』に濁点が付くのかは不明だが、ともかく地面にへたり込んだまま感謝の言葉をかけてくるベル。
「はいはい、分かったから私の服に鼻水を付けるのはやめて頂戴ね?」
「ぶゎーい。」
口では文句も言いながらもフェゴールはベルの頭をそっと撫でてベルが落ち着くのを待っている。
ベルの目と鼻と口から出てくる液体という液体が垂れ終わるまでかなりの時間を費やすことになってしまった。
「ごめんねお姉ちゃん、もう大丈夫だよ。」
「そ、そう。」
そしてこの変わりようである。
その様子に若干苦笑いをしつつも話し始める。
「じゃあいくつかの事後報告を始めるわ。」
いつものお姉ちゃんモードではなくダンジョンコアの参謀としてのスイッチが入ったのか、少し真剣な顔になって話を続ける。
「まずはマーブルウルフ、そのまま逃げると思ったけど入り口付近に石を運んで住処を作っているわ。」
「えぇ!?じゃあまた襲ってくるの!?」
「試しに入り口にスライムを出してみたけど襲われることは無かった、むしろ雑草を消化してくれていることを喜んでいるみたいだから、このまま共存できるかもしれないわ。」
「雑草が無くなると嬉しいの?」
「元々が山岳地帯に住んでいるモンスターだからね、案外住みやすい場所を探して迷い込んだだけなのかもしれないわね。」
そんな風に勝手な想像を付け加えてクスッと笑うフェゴールだが、実のところは大正解であった。
「そっかー、とりあえず元気そうでよかったかな。
あとでDPでジャーキーでも買ってあげようかな?」
「危険だけどあのマーブルウルフは頭が良さそうだし、うまくいけば手なずけられるかもね。」
何気ないベルの発言だったが以外にも乗り気なフェゴール。
だがフェゴールはこのダンジョンのことを考えると賛成だった。
そもそもこのダンジョンはベルの固有スキルのせいで召喚するモンスターには戦闘力を求められない。
そのためDランクのモンスターであるマーブルウルフ相手に人海戦術……いや、スライム海戦術という奇策を投じなければいけなかった。
だがスライムに無暗に手を出さなくなった今なら餌付けしに行っても襲われない可能性は高くなっているハズ。
上手くいけばこのダンジョンの最高戦力となりうるモンスターを手なずけられるかもしれない。
そう考えれば賭ける価値もあるギャンブルなのだ。
「それと被害報告ね、目算だけど約300匹程度のスライムが犠牲になったみたい。」
「そっかぁ、スライム達みんな頑張ってくれたんだね。」
そう言いながら近くにいたスライムの頭(?)を優しくなでるベル。
スライムはプルプルと震えている。
どうやら嬉しいようだ。
「でもそれよりもDPを全部使った事のほうが被害が大きかったかもね。」
「ううぅ、ごめんなさぃ。」
食事はベルが1DPで出すことが出来る。
フェゴールは空気中の魔力を糧にしているため食事が必要なのはベルだけではあるのだが、毎日3食の食事で3DPは必要である。
普段はここに暇つぶし用の物品も購入するため一日7DP前後の消費なのだが、先ほどのマーブルウルフの襲撃の際に全てのDPをスライムの召喚に割り当てた。
そのため現在DPは0であるはずだった。
「そ、そうだ、マーブルウルフが居る間にDPが貯まっているかも、それで一食くらいなら何とかなるかも…っと。」
僅かな可能性を信じ制御盤を操作し始めるベル。
人間ほどではないが野生のモンスターからもDPは回収できる。
1DPでもあれば明日の50DPの収入があるまで我慢ができる。
その程度の思いで現在のDPを確認したベルだったが、その考えは逆方向に外れるのであった。
「ウソ!?何で、どうして!?」
「え、どうしたのベル!?」
「DPが…今のDPが324DPもあるんだけど!?」
直接見たベルは二度見、三度見と何度も確認しては「何で、どうして!?」と連呼し、フェゴールも開いた口が塞がらない状態になっていた。
『324』、その数値はまさに今日倒されたスライムの数と同じ数である。
今回のマーブルウルフの襲撃によって判明したのはベルの固有スキル『【怠惰】の烙印』の隠された最大級のチート能力だったのだ。




