167、新米戦:登山道にて2
当然ながら彼女たちがスケルトンキングの中に紛れて山を登るという奇行に走っている理由はちゃんとある。
そして、この理由の考案者は意外にもこのパーティで唯一の良心とも言っても過言ではないバニラであった。
『あの人たちがベルのダンジョンから出てきた子ならこっちから戦闘を仕掛けない限りは大丈夫だよきっと、ああ見えて結構優しいから。』
『……アンタ、なんでそんな事知ってるのよ?』
『あ~……、うん、ゴメン、これは秘密だった。』
『秘密だったら秘密って言っちゃダメなんじゃ……』
そうだね、と笑ってごまかそうとするバニラを見てミントはそれ以上の追及を今はしない事にした。
バニラの言う秘密とはソフランが計画、そして実行された『日帰りダンジョンアタック作戦』である。
件の作戦にはトリル、ソフラン、テムジン、エストリア、そして『ラビリンスハート』からはバニラとモロハの計六人が参加していた。
その際オカルト好きであったバニラは少々(?)暴走してスケルトンとの意思疎通を試みたのだが、何故かバニラの試みは成功してしまい少なくない情報を手にした。
あの時はベルがダンジョンコアだとは思いもしていなかったので大した情報でも無かったが、今こうして同じ舞台で戦うにあたってはそのどうでもいいと思われていた記憶の希少価値が一気に跳ね上がったのである。
まず一つ目としてベルのダンジョンのモンスターは人数差や地形などの要素でどれだけ有利にあっても無暗に人を襲わない、ということだ。
バニラが直接接触したスケルトンはもちろんだが、その日その場にはエンシェントドラゴンも堂々と鎮座しており冷静に思い返せば向こうから六人の姿はハッキリと見えていたハズであり、やろうと思えば今頃バニラがこの場に立っていなかった未来だってあり得た。
さらに言えば自分でマナドールだと名乗っていたフェゴールだって人間に魔法の矛先を向けたなんてことは記憶にない。
これらの事実から、スケルトンだけではなくベルのダンジョンに属しているモンスター全員が非好戦的なのではないかと導き出したのである。
この予想は実際のところ半分は当たっていると言えるが、もっと言うなら勝てないので戦わないというのが正解である。
さて、ここまでの理由であればわざわざ狭い山道など通らずにベルのダンジョンに乗り込めばいいのだが、その道は二つ目の理由によって脆くも崩れ去ってしまった。
彼女たちの道を阻んだ二つ目の理由、それはエンシェントドラゴンの存在である。
ダンジョンの入り口を閉ざすボスモンスターによる結界、それはベルと行動していた冒険者たちは全員目撃した。
しかし、その結界を作り出しているボスモンスターの正体があのエンシェントドラゴンであると知っているのは『日帰りダンジョンアタック作戦』に参加した六人だけなのだ。
用はベルのダンジョンを攻略するために必ずエンシェントドラゴンと戦わなければいけない事をバニラとモロハは知っていたのである。
『……で、その情報の出どころは?』
『えーと、それも秘密で。』
いぶかし気な表情を隠さなかったミントだったが、これ以上ゆすっても無駄だと判断したのかゆっくりと視線を外した。
これが彼女たちがスケルトンキングと肩を並べながら【鋼鉄】のダンジョンへと延びる山道を歩き始めるまでの経緯である。