166、新米戦:登山道にて
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「全く、ウチのチビッ子は人使い……じゃなくてネコ使いがなってないのニャ。確かにダンジョンの奥でスケルトンとスライムの数を数えながら建築の指示を出すだけの作業はヒマでヒマで仕方が無かったけど、ソレはソレ、コレはコレだニャ。」
ブツブツと愚痴を垂れ流しながら歩くのは人型ながら人と比べると毛深くピョコピョコと動くネコのような耳を付けた少女、ケットシーであった。
わざわざ言い直すほどに本人はネコだと思っているようだがシルエットはほぼ人間である。
そんな彼女は現在周りのスケルトンキングと足並みをそろえて【鋼鉄】のダンジョンがある山を登頂している最中だった。
流石にダンジョンの入り口が山頂にあるなんてことは無いようだが、それでもジワリと汗が出るくらいには険しい道のりである。
冒険者たちが即席で作ったと思われる道らしきものはあったものの、目立つ形の岩を目印代わりに等間隔に置いていたり、険しい崖の上からロープを垂らしていたりと、名実ともに即席の登山路だ。
むしろ数滴の汗しか出ていないと称賛するべきなのだろう。
(カタカタ…)
「お前たちはいいニャ。汗も出ないし疲れない、それに喉も乾かないニャ。ま、吾輩は美味しいごはんを腹いっぱいに食べて大の字で寝るのが好きだからお前たちみたいにはなりたくないけどニャ。」
そういいながらケットシーは隣を歩いていた人骨、スケルトンキングの腕を肉球でポンポン叩いた。
ベルのダンジョンから無数に溢れるスケルトンキングの流れは今だ留まる事を知らずに続いている。
この光景を遠くから見ることが出来れば山の斜面に白色で浮かび上がる山道のラインがくっきりと見えていたに違いない。
それほど人口密度の濃い中で不安定な道が崩れないのはスケルトンキングたちの体重が肉が付いていない分軽いからであろう。
偶然ながらもベルの采配が光る結果になったようだ。
しばらく隣の骨にネコパンチをしながら歩き続けていると、明らかにスケルトンキングではない人影四人が骨の道に並走するかの如く歩いているのが見えた。
それぞれ短杖、長杖、本、そして刀を装備した少女たちの後ろ姿にケットシーはすぐ目の前の人物に思い至った。
「ややや、あれが噂のモロハご一行ニャ。」
冒険者としての視点で見るならミントがリーダーなのでミントご一行である。
「もうちょっと隠れて移動すればいいのにニャ……あーそうかニャ、山道を外れて移動する方が大変かニャ。」
急ごしらえであるが道は道、しかも山道である。
勾配があり凹凸の激しい山中で先人となる人々が比較的通りやすいルートを見つけ出して整えた唯一の道をそれる事は、足回りに自信のある冒険者以外では選択肢に上がるはずがない。
ましてや彼女たちは四人中三人が魔法使いであるため、この一本しかない細い道を通るしか選択肢が無いのだ。
……モンスターの真横を刺激しないように歩く方が命がけであるとツッコんではいけない。