163、新米戦:『【聖域】の神気』
ベルのスキル名が『【怠惰】の烙印』なのに対して、モロハのスキル名が『諸刃の一刀』と【】が抜けている表記だったので、ベル側の名称に寄せて『【諸刃】の一刀』と修正しました。
『怠惰の烙印』と表記すればスッキリしますが何分色んな話数で書いているので修正が面ど…
「無数の閃光わが手に集まりて、無情の極光全てを燃やす!闇を、悪を、正義を貫く至高の輝きを遥か果てまで届け給え──」
「ッ!みんな避けて!!」
「──貫通閃光!!」
詠唱の完了と共に掲げた錫杖を前に突き出すと、錫杖の先端から虹色に輝く極太のビームが一直前上を突き進むように放たれた。
強力な魔法の気配にいち早く気が付いたバニラの声により直撃コースは避けられたものの、咄嗟の回避であったためミントとバニラ、ココアとモロハがそれぞれ分断されてしまった。
分断と言っても駆けつければ一秒とかからないであろう距離なのだが、その両者の隙間の地面から【聖域】の両脇に構えていたシスター姿の女性二人がムクムクと生えてきた。
「またシャドウなの!?」
「残念ながらこやつらはシャドウよりも上位のモンスター、ドッペルゲンガーじゃ。冒険者として未熟ながらここまでたどり着いたことまでは褒めてやるが、我々と出会った以上キサマらの未来はもう無いと覚悟せよ!」
見栄を張った訳ではない自信たっぷりな立ち振る舞いを見せる【聖域】は再び錫杖を天に掲げて詠唱の構えに入った。
「…ん。」
流石に二度目は見逃さないとばかりに怪しい動きを見せる【聖域】を目掛けてモロハが無言で走り出そうとした。
しかし──
「…ッ!?」
足元を何かに捕まれるような感覚、否、足元の影から腕だけを出したドッペルゲンガーに本当に足を掴まれていた。
パーティを分断していた二体のドッペルゲンガーはまだその位置からは動いていないようなので、今足を拘束しているのは【聖域】の傍から動いていなかった他のドッペルゲンガーであろう。
そう思い顔を上げたモロハの目に映ったドッペルゲンガーの数は四体だった。
すなわち──
「……最初から、影に居た。」
「ご明察じゃ。このダンジョンの入り口での戦闘であらゆる方向からの攻撃を警戒させている間に足元から忍ばせておいたのじゃよ。その後はいつ仕掛けてもよかったが、確実に逃げられないように奥までは手加減をして誘い込んだという訳じゃ。どうじゃ、道中はさぞかし進みやすかったであろう?罠も少なくモンスターがたまに不意打ちする程度の気軽なダンジョンとでも思っておったか?そう思っておったならそれこそがこのダンジョンの最大の罠という事じゃ!」
「ダンジョン全体が罠!?ちょっとアンタ、【聖域】って名前詐欺じゃないの!?」
「嘘はついておらん。少なくともこの爺にとっては、な。」
人間から見れば死を司る地獄であっても、ダンジョンコアから見れば自分たちを優しく守る聖域と言っても過言ではない。
確かにその理屈であれば【聖域】の名は少なくとも本人とそのモンスターたちから見れば真実なのであろう。
そんなやり取りの中、とある重要な事に気が付いたのは意外にもココアだった。
「んーと、この部屋に誘い込むことが罠って事は……もしかしてこの部屋自体に大掛かりな仕掛けがあるって事っスか!?」
「んなッ!?」
「フハハハハ、今気が付いてももう遅いわ!吾子を抱く光の揺り籠、【聖域】の名において我らを包む円光となりて永久に光れ!そして輝け!『【聖域】の神気』」
先ほどとは違う詠唱を終えた【聖域】は錫杖を勢いよく地面に突きたてた。