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16、【怠惰】のやさしさ

前回15話にて『爪がスライムの身体に触れるか否かのタイミングでその感触は無くなり、その身体は消滅した。』の文章を勘違いして『スライムがマーブルウルフの爪に触っただけで消滅する』と捉えられてしまったので、ここで補足とお詫びをします。



この文章は攻撃中の動いている爪に当たったスライムの状態です。

簡単にいえば『全く手ごたえの無い相手』の表現で書いたつもりでした。



今後同じような勘違いをしている人が多ければ、15話本文を修正するかもしれません。

♢♦♢

「す…凄い!?スライムだけなのにマーブルウルフの侵攻が止まった!?」


何度も目をパチパチさせながらコアルームの制御盤に映し出されている映像を眺めているフェゴール。

始めこそ一騎当千の如き野生の体術でスライムを寄せ付けなかったマーブルウルフだったが、今や全身がスライムプールにひたり身動きどころか呼吸すらできない状態だった。


いや、実際には呼吸できないように()()()()()()()であった。


マーブルウルフが顔を激しく動かすたびに鼻先のスライムが消滅し、その一瞬に僅かな空間と空気が生まれる。

それはスライム自体に取り込まれた空気だ。

だが、その程度の空気で活動するのにはさすがに無理があるのか、時折後ろ足を動かす程度の反撃しかできないようになっていた。


「このまま大人しくなるまでスライムでの拘束を続けるの?それとも他に…ってベル!?」


どちらにせよこのまま放置しているだけでマーブルウルフは倒せる。

そんなフェゴールの横で今にも泡を吹いて倒れそうになっているベルが同じ言葉を繰り返しているのだ。



「あわゎゎゎオオカミさんかわいそうオオカミさんかわいそうオオカミさんかわいそうオオカミさん───」



本来ダンジョンコアというのは人とモンスターを戦わせて、あるいは相手を罠にかけて等の手段を用い上質な人の感情を引き出し、それを食らう者である。


それらのダンジョンコアの本能ともいえる役割を否定し、大樹海の奥に引きこもるベルはそれだけでも常識外れであるのだが、彼女の異端さはそれだけにとどまらなかった。


ダンジョンを脅かさんと現れたマーブルウルフにあろうことか感情移入してしまっていたのだ。


「しっかりして!?ダンジョンコアとしてダンジョンを経営している限りモンスターの死なんて日常茶飯事に───」


日常茶飯事になるのよ。


そう言いかけたが、よく考えればこのダンジョンで死者が出ることが本当にポンポン起こりうる事なのか、と考えてしまい言いよどんでしまったフェゴール。


なにせベルの召喚するモンスターは『【怠惰】の烙印』によりパラメーターが0になっている。

そんなモンスターしかいないダンジョンに冒険者が現れ本格的な攻略に乗り出したらどうなるか?


冒険者は今回のマーブルウルフとは違い、あらゆる状況を想定して攻略している。

Bランクには見えないほど軽率だった『忘れられた黄金』でも入り口の一歩目から罠を警戒しながら侵入していたし、ベルと初めて会った時も未知のモンスターである可能性を考慮し不用意に攻めなかった。

今回のスライムプールを冒険者相手に使っても直ちに撤退されるか、範囲魔法で薙ぎ払われるだろう。


そうなるとここのダンジョン内ではベルの召喚したモンスター以外の、所謂(いわゆる)『侵入者』がしかばねになることは殆どないだろう。



そこまで考えてフェゴールの脳裏にある可能性が浮かんでしまった。



本来のダンジョンコアが当たり前のように使っている侵入者を薙ぎ払うための機能(モンスター)、それを全否定したような固有スキルを持つ【怠惰】のダンジョンコアであるベル。


それならばベルの性格もまた、自身の固有スキルと同様に本来のダンジョンコアの性格を全否定したような、例えば目の前のマーブルウルフ(侵入者)に対して『かわいそう』などと思ってしまう性格になっていてもおかしくはない。


あまりにもぶっ飛んでいる考えだとは思いつつも、目の前でクシャクシャになっているベルの顔を見ると否定が出来ない。


と、その時マーブルウルフの後ろ足のケガをしている部分から目に見える量の血があふれ出し、背後のスライムを真っ赤に染めた。

スライムに拘束された状態で暴れ過ぎたせいで治りかかっていた傷口が開いてしまったのだ。


「ああぁ…ううぅ…」


どんどん広がる赤色に言葉を失い、ついには地面にへたり込んでしまうベル。

その体は小刻みに震えていたが、目線は制御盤の映像から離れなかった。


その様子を見て、先ほどの仮説が現実であると思い知らされたフェゴール。


それと同時に頭によぎる思考。

ダンジョンコアとしてはあり得ないほどに純粋な性格のベル、その姉として生まれた私はベルに対して何ができるのであろうか。


制御盤の映像に映る白狼と、隣で震える小さな少女。


最善なのはマーブルウルフに止めをさすこと。

しかし、その選択肢を選んだ場合ベルは平常心ではいられなくなるだろう。


ではマーブルウルフに回復魔法をかけて拘束を解く?

そうなれば再び暴れだした場合に同じ方法で拘束できるは分からない。

元から手負いだったからスライムでも対処できたが、回復魔法をかけた後の本来の戦闘力に戻ってしまえば抑えられない可能性があるからだ。


それでも選ぶべきは後者。


理由は簡単、ベルの泣き顔など見たくないからだ。




「ベル、オオカミさんのケガを治して来るから、だから、ね?お姉ちゃんに任せておいて。」

「お姉…ちゃん…?」


ベルと同じ高さまで目線を下げたフェゴールは出来るだけ優しく声をかけ頭を数回撫でたのち、ゆっくりと立ち上がり歩き出す。


フェゴールはベルに召喚されたモンスターである。

そのため固有スキル『【怠惰】の烙印』の影響を受けているものの、回復魔法と状態異常に関する魔法の効果は消費するMPの量に比例するため、魔法防御力が0でも問題なく回復できる。

また、ベルが召喚時のオプションとして全ての魔法を使用できるようにしてある。

そのためマーブルウルフに回復魔法を使うだけなら些細な問題にはならない。


しかしケガを治療した直後に襲われた場合、防御力が0のフェゴールでは致命傷を受けてしまうだろう。

スライムと違って『致命傷』で済むのは、フェゴールの種族がHPの高いゴーレムの亜種であるマナドールだからだ。


だが簡単に倒されてやるつもりは更々ない。


自分が笑って帰ってこないとベルが悲しむから。


隣のフロアに向かい進むフェゴールは、こっそりと笑顔の練習をしながら、そう考えるのであった。

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