155、新米戦:第一防衛ライン
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「ガッハハ、初手でスケルトンキングの大群か!守りを捨てて全戦力を投じたか、はたまたあの程度では揺るがぬほどの戦力を持っていたか。やはり見た目通りの可愛い戦術はしてくれなさそうな相手じゃい。」
コアルームに繋がるハッチがある中央の高台に相変わらず陣取っている【鋼鉄】だが、眼下に広がりつつある白骨の大群に対しても臆することなくいつもの余裕を保持し続けていた。
むしろギラついた目の奥にある燃える闘志は相手の数が増えるごとに増し続けており、彼のコンディションはこれ以上ないほどに高まっていた。
このまま敵軍のど真ん中に一人で突っ込んでいきそうな雰囲気になっているが、流石にそこまで脳筋ではないらしい。
「だがしかしッ!!そんなヒョロヒョロの肉付きでワシのゴーレム部隊を受けきれると思っておるとは実に笑止!!行けッ、クレイゴーレム!!各第一防衛ラインを死守してこい!!」
【鋼鉄】の号令と共に各地の床がスライドしてその中から昇降機でクレイゴーレムがせりあがってきた。
また一部の壁に備え付けられていたシャッターもガラガラと大きな音を立てながら開き、中で待機していたクレイゴーレムがのそのそと動き出していた。
【鋼鉄】のダンジョンは東西南北にそれぞれ三つずつ存在している金属製の分厚いゲートが冒険者の行く手を阻む構成になっており、ゲートを超えて内側に入る程に強力なゴーレムが待ち構えている構成になっている。
何故わざわざ東西南北にゲートが分かれているかと言えば【鋼鉄】が信じる浪漫によるこだわりであり、そこに戦術や戦略などは一切含まれていない。
しかしながら四方向から攻め入られてもビクともしない鉄の要塞都市風ダンジョンと名乗れるだけの防御力がある事だけは確かなようだ。
「向こうさんが物量で押して来るんじゃ!ワシも出し惜しみは一切無しじゃい!!」
咆哮と共に次々と昇降機とシャッターが重低音と共に動き出してクレイゴーレムを要塞都市に解き放っていく。
その数はなだれ込んでくるスケルトンキングにも負けておらず、巨大な円形都市の一番外側が白と茶色の二色で覆いつくされるのも時間の問題でありそうだ。
フェゴールの種族であるマナドールを説明する際にも軽く触れてきたが、ゴーレムとは何かしらの無機物に魔力を流すことによって生き物のように動かす事を可能としたモンスター全判の総称で、その中でもクレイゴーレムは土や泥などの素材によって作られたゴーレムだ。
言ってしまえば土人形なので戦力としては頼りないようにも思えるだろうがそれは概ね勘違いである。
例えば土嚢などを考えてみて欲しい。
土は袋に詰めて地面に並べるだけで遮蔽物として十分に活躍できるほどに重く硬い物質になり、一般人であれば土嚢一つを持ち上げることも難しいだろう。
その硬さには粘りもあるため、ただ硬いだけの石と比べれば衝撃にも強く防御範囲は侮れない。
それに土というありきたりな素材で出来ているため一撃必殺さえ免れればほぼタダで回復させることも可能なコストパフォーマンスの塊でもあるのだ。
一応補足しておくが、石でできたストーンゴーレムが弱い訳ではない。
たしかに衝撃にはクレイゴーレムと比べれば弱いがそもそものパラメーターに差があり、特に大幅に強化されたHPのおかげで弱点である衝撃や魔法が相手でもゴリ押しがしやすくなっている。
なお重量が増しているためか敏捷が減っているが、クレイゴーレムの時点でも非常に鈍重で敏捷は飾りなので大した問題ではないだろう。
「それぃ、ブチかませぇ!!」
お互いに数が多く既に混戦になっているのだがギュウギュウに詰め込まれた空間の中でクレイゴーレムは両手を広げ、多くの敵を抱え込むように体当たりを仕掛けた。
重量物の塊をよけきれなかった白骨たちはカタカタと音を鳴らし、文字通り骨がバラバラになりながら吹き飛ばされていく。
スケルトンキングの群れをクレイゴーレムが圧倒するその様子を見ていた【鋼鉄】だったが、その表情は期待外れの物に当たってしまったと言わんばかりの残念そうな顔であった。
彼は早速あの違和感に気が付いたようだ。
「何じゃ何じゃ、骨が軽いのは分かるが仮にもキングじゃろうに。それがクレイゴーレム程度で押し切れるとはあまりにもお粗末じゃないのかの?骨なのに骨が無さ過ぎるのぅ。」
そう、あまりにも弱すぎるのだ。
【鋼鉄】の言う通りスケルトン系のモンスターは防御力がさほどではないものの、流石に土人形と骨の王様ではランクが違い過ぎるためブチかまし一発KOはあり得ない。
ここでそれはなぜかを考えることが出来ればベルの固有能力にたどり着けたかも知れないが、それは残念ながら【鋼鉄】の苦手な部分である。
「まぁいいじゃろう。もうちっとは熱い戦いを期待しておったが、勝てる試合に贅沢を言うつもりもないわい。クレイゴーレム、もう一度ブチかましじゃい!!」
【鋼鉄】とベルの戦いはひとまず【鋼鉄】が優勢な展開であった。