152、攻めの女性陣1
一話で収まらなかった……
♢♦♢
少々の高低差はあれど概ね平坦であると言える穏やかな平原のど真ん中。
今までの流れならばダンジョンの中にある平原地帯とでも言いたい所であったが、この場所はダンジョンの外側であった。
吹き抜ける風と共に揺れる草花の中、腰を下ろして円形に向かい合う四人はお馴染みの新人冒険者四人組……いや──
「アタイたちのパーティの名前が決定したわよ。」
「待ってましたっス!」
「おめでとうミントちゃん。」
「……ん。」
これからダンジョンバトルが始まるこのタイミングにおいて他のダンジョンコアとは全く違う切り口の話題から始めようとする四人組だが、これでようやく”新人冒険者四人組”という長ったらしい名称から脱却できそうである。
「それでどんな名前にしたんっスか?」
「ふふん、そりゃもちろんカッコよくて可愛くてスマートでイケてる名前よ!」
「……全然分からないよミントちゃん。」
「ゴメンゴメン。えっとね、多分なんだけど私たちってこれからモロハのおかげでダンジョンに関わる色んな厄介ごとに巻き込まれていくと思うのよね。」
「……ん。」
パーティの名前は何だという話であるハズなのに急にダンジョンの話を明るく話し始めたミントに対して、急な話題の転換に付いて行けずにココアとバニラは目を丸くしてキョトンとした様子であった。
そして厄介ごとの種だとド直球に言われているモロハが無表情ながらもうつむくような動作をみせたのだが、それを見たミントが慌ててフォローに入った。
「あー、厄介ごとってのは良い意味でって事よ。冒険者にとって厄介ごとが無いって事は仕事が無いって事なの。言い換えるならモロハのおかげでダンジョン絡みの仕事がやりやすいんじゃないかなーって考えたってアタイは言いたかったのよ。」
「……ん。」
「だから”地下牢の中核”から発想を飛ばして、アタイたちのパーティの名前は迷宮の心臓、そう、”ラビリンスハート”で行くわよ!」
「ラビリンス……」
「ハート……」
「……ん、良い。」
三人が自分たちのパーティ名を噛み締めるように心に刻む。
普段は動くことの無いモロハの表情筋もこの瞬間だけは分かりやすく緩んでいる。
それもそうだろう、パーティで一番の爆弾ともいえるモロハの正体がパーティ名の由来に使ったという事は、人間とは異なる存在であるダンジョンコアのモロハをミントたちが完全に受け入れたという事なのだから嬉しくて当然である。
この体の芯から温まるような時間を全員で食卓でも囲んで美味しい料理を食べながらもっと堪能しておきたいのは山々だが、流石に今はそれどころでは無い。
「さてと、今からダンジョンバトルってのが始まるみたいだけど……モロハ、一つ確認してもいい?」
「……ん?」
「アンタがダンジョンを作ったりモンスターを召喚する所を見たことが無いんだけど、今日はダンジョンを使うの?それとも冒険者のモロハとして戦うつもり?一応言っとくけど冒険者ギルドはダンジョンに潜れるのはDランクのパーティから、それよりも低いランクのパーティはダンジョンに潜っちゃダメって事になっているんだけど?」
「……見逃して。」
「オッケー、アンタがやる気ならとことん付き合うわよ!いいわよね、ココア!バニラ!」
「いいっスよ!」
「い、いや、それはダメなんじゃ……」
「はい多数決で決まりね。」
「そ、そんな~!」
このメンバーでダンジョンなんて~とか、ギルドの罰則が~などとうわ言を垂れ流しながら地面に崩れるバニラを無視してミントは今回の作戦を伝える。
「そういう訳だからアタイたちは冒険者として真正面からダンジョンを攻略するわよ!最奥にさえついてしまえば良いって話だから危なくなったら逃げればいいのよ、前に!」
「全然逃げる気が無いっス!」
もはや作戦会議とは思えない程に緊張感のない声で笑いあう二人と、それを見る無表情が一人、そして地面にペタリとくっ付きそうな勢いで脱力しているのが一人。
人は彼女たちを、ラビリンスハートと呼んだ。
伝説になりそう(小並感