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151、守りの男性陣

♢♦♢



天を仰げば天然の洞窟をそのまま拡張したような岩盤むき出しの天井、地に目をやれば鋼鉄製の門と壁を備えた円形の迷宮がある一点を中心にグルグルと広がっているとあるダンジョン。

天井までの高さは七~八メートルと言ったところだが、【騒音】の実況によるとこの空間の全部なのか一部なのかは定かではないにせよツルハシによって広げられたと言うのだから驚きである。

その円形ダンジョンの中心にはこれまた円形のハッチがあり、その上には狐につままれたかのような表情をみせるトカゲ顔の漢の姿があった。




「むぅ。疑っておった訳では無かったのじゃが、こうもあっさりと転移させられるといっそ拍子抜けってもんじゃのぅ。」



何をするでもなくただ手を組んで佇んでいるだけのその漢は、たったそれだけの仕草でただならぬオーラを周囲にまき散らしていた。

彼が立っているハッチの下にはこのダンジョンのコアルームが存在しているのだが、今はそのような縮こまった場所ではなく自分のダンジョンのほぼ全域が見渡せるこの場所で風にあたっておきたいと思ったようだ。


ちなみにダンジョン内に天然の風が吹くことは当然ながら無い。



「ゴング型の魔道具のぅ。洒落は効いておると思うが試合開始のタイミングとは少々ズレがあるのが惜しいもんじゃな、ガハハハ!!」



豪快に笑い飛ばしているが別段誰かに話しかけているということではない。

懐かしの友人に話しかけているような声色だが、これでも一応独り言なのである。



「それにしても細腕の嬢ちゃんが二人に腰の曲がった老人が一人が相手とはのぅ。ダンジョンコアは外見と年齢が一致しないとは鏡を見ればわかる事じゃが、何ともやりにくくていかん。まぁ、あの老人は油断ならぬ気配を纏っておったし、着物の嬢ちゃんはダンジョンに来る戦士系の冒険者と何ら変わらん気迫がある。フリフリの嬢ちゃんに関しても小動物か何かと勘違いしておるとエライ目を見るやもしれん。」



彼はどちらかというと()に秀でているタイプであり、その反面で頭が良い訳ではない。

それは自分自身でも理解しているため、時折このように自分の考えをあえて声に出しながら思考にふける時間を設けているのである。


そのような脳の整理が功を奏したのか一つの結論に行き着く。



「うむ、相手の事を考慮するよりも自分の得意分野を貫く方が楽そうじゃ!元よりワシのゴーレムどもでは足が遅くて進行に向かん、がっちり守りを固めつつ相手を迎撃してDPを貯める!それを元手に軍勢を増やして最後にドカーンッじゃな!」



自らの結論に満足したようで、広々とした洞窟の天井にまで届くほどの大音量でガハハと笑い飛ばすのであった。






♢♦♢






外見と同じく白を基調とした壁と柱にはシミの一つも無く、床に敷かれたカーペットは三角形が連なっているだけの単純な模様でありながらほんのりとした高級感を漂わせている。

ダンジョン内は特殊な空間となっており外観での大きさと一致しない事は多々あるのだが、このダンジョンの地上部分については外観となる神殿の大きさに比例した内装を持っていた。

対して地下に関しては他の一般的なダンジョンと同等と言える構造になっており、その最奥に配置されたコアルームの中では一人の白いひげを備えた老人とそれを取り囲む数人のシスター服を着た人物が話し合いをしている最中であった。



「──つまりは、この爺の見立てでは腹芸が出来るような者は無かったように思えるな。」

「そうなのですか?」

「むっさいトカゲ男は脳まで筋肉で出来ておる残念なヤツじゃった。オッドアイの娘っ子は多少は見所があるかと思うたが挑発に簡単に乗った所を見ると単なる気のせいじゃろう。人間を連れた女性に関しては本人の表情は分かりにくいが周囲の人間どもが単純で引っ掛けやすいように感じた。いずれにせよいつも通り真正面からの戦闘は避けつつ戦うことになるのではないかの。」

「流石は司教様です。」



先ほどの選手同士の対面において他の選手を全く脅威として捉えていない様子の【聖域】はいかにも高級そうなイスに座りながら周りのシスターたちが頭を下げる姿を満足げに見下ろす。

小高い丘から見下ろす夜景が素晴らしいように、贅沢を凝縮したようなコアルームに置かれたこのイスから見た【聖域】を崇拝するシスターたちの姿が彼の何よりの楽しみである。


地上に突き出した神殿部分はさほどの贅沢は見せていないが、それはあくまで他者の視線がある場所で聖職者にあるまじき傲慢さを見せる訳にはいけない為に他ならない。

人間を騙して多くの獲物を誘い込むような現在の体制でなければ今頃地上部分でさえ黄金に輝いていたことであろう。



「当然ながら奥の手だけはいつでも使えるようにしておくようにの。いくら能ある鷹とは言え爪は使える時に使う物なのじゃからな。」

「承りました。」



代表で話していたシスターらしい人物が了解の返事を行うと同時に、この場に居た全てのシスターが影に吸い込まれるように地面に溶けて消えていった。

そう、このダンジョンは立派な神殿の中で偽りの神を称えるダンジョンコアの司教と、モンスターが化けたシスターによって相手の信用を勝ち取ってから一人、また一人と徐々に人間を飲み込んでゆく極悪ダンジョンなのだ。

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