150、【怠惰】とゴング
「HAHAHA!!全員の顔合わせも終わったようだし時間的にも遅れ気味だが誤差の範囲だ!このまま試合開始のゴングを打ち鳴らしてもいいかな?」
「ちょ、こんな全員が至近距離に居る状態で試合を始めるつもり!?」
「ノープログレム!このゴングはちょっとした魔道具で、これを叩けば選手はそれぞれのスタート地点に飛ばされるんだぜ!」
「すっごいご都合主義!」
何ともメタ的なツッコミをしたベルだが、それに対して【騒音】は当然だと言いたげな表情でベルの言葉を肯定した。
「そりゃ創世神様がダンジョンバトルのためだけに作り出した魔防具だからな、むしろご都合主義の塊でなきゃおかしいってもんだぜ!」
「あー、そう言われると確かに。」
ベルは【騒音】が言わんとしている事がやんわりと理解できたようだ。
用は創世神とはベル的には『ゲームプログラマー』や『GM』のような役割を持っていて、この世界に存在する人間、ダンジョンコア、モンスターだけではなく地形や環境、果ては太陽の周期までも調整して世界のバランスを整えている神様でないかと感じたのだ。
そんな神様がゲームをスムーズに進めるための道具やシステムを用意するのは至極当然であると言う結論にベルはごく自然にたどり着いた。
「ちょっとちょっと、そんなことのために魔道具一つを作ってしまうなんてどうかしてるわ!そういえばこの変な場所に飛ばされたのもその創世神って神様が絡んでいるのよね?ソイツは一体何者なのよ!」
だが”神”という存在を名前でしか理解していないミントにとって創世神と呼ばれている存在は”神の名前を騙っている凄腕の魔術師”程度にしか思っていないような言葉で【騒音】に詰め寄った。
──その刹那【騒音】から余裕の表情が、消えた。
シュッ!!
「……一つ忠告しておくよ、オテンバなヒューマン。」
「なっ、いつの間に後ろに!?」
目の前にいたはずの人物の姿が一瞬で掻き消え、その男の声がミントの真後ろから聞こえる。
投げかけられた声に振り向こうとしたが、戦いに慣れていないミントでもハッキリと感じてしまう凝縮された殺意によって身を固める事しかできなかった。
完全に委縮してしまったミントの反応などどうでもいいと言わんばかりに後ろの声が忠告を続ける。
「これからも冒険者を、いや、人生を続けていきたいならもう少しだけでも観察力を磨いた方が良い。いいか、創世神様はオレみたいな礼儀も無ければ空気も読めないような若造でも必ず様を付けるようなお方なんだ。それだけの敬意を見せているヤツの前で創世神様をソイツ呼ばわりなんてすればこうなるのは当然だよな?」
「ッ!?それは……確かに……ごめん……」
「オッケィ!余計な事を言わずに頭を下げれるのは素晴らしい判断力だぜ、オテンバヒューマン!!」
ニヘラと妙な笑みをこぼした【騒音】は普通の歩行速度で各選手の中心に移動した。
「さて、先ほども言ったがスケジュール的には遅れているんだ!このゴングを鳴らせば皆がスタート地点に送られる!その後に試合開始を告げるアナウンスを挟むから、スタートの合図と共に各々戦い始めてくれよな!」
「当たって砕けろ、ちゅー訳じゃな!!」
「最初に強く当たって、後は流れでお願いしますって事かも?」
「どっちも負けそうに聞こえるんだけど……」
「おっとこれ以上は待てないぜ、それじゃあ全選手には位置についてもらうぜ!」
やや早口になった【騒音】が手元のゴングを『カーン!!』と一発、高らかに響かせた。