143、【怠惰】と転移魔法
♢♦♢
「アレ!?私はだれ、ここはコアルーム!?」
「思い出す方が逆になってるわよ。」
ダンジョンでの神隠しを受けたのはベルとフェゴールの二人も含まれていた。
もっとも転移してきた場所が自分のダンジョンのコアルームであったため、他の冒険者たちのような慌てようにはならなかったようだ。
それこそボケる余裕がある程度には余裕があるようだ。
そして、コアルームに転移してきたということはあのモンスターと鉢合わせる事を意味している。
「ニャニャニャ!?お前たちはいつかのチビッ子とそのお供!?まーた勝手にこんなところまで入ってくるなんてデリカシーに欠けるヤツニャ!」
((お前に言われたくはない!!))
今日もこの場所で待機していたらしいケットシーが相変わらずのナチュラル失礼をかましているが、本人が気が付いていないだけでケットシーはベルの配下のモンスターである。
「もしかしてアレなのかニャ?正面ゲート以外も案内してほしくてまた来たのかニャ?」
「あー、まぁ案内はして欲しいんだけどさー。」
「何にゃ?そんな歯切れの悪い言い方してニャ。」
「あのね、多分手遅れかも。」
ゴゴゴゴゴゴゴ……
「ニャ?ニャ!?ニャニャニャ~!!」
「これは地震!?あり得ない、ダンジョンは地上と独立した空間だから外で地震が起こったとしてもダンジョンの中は揺れないハズよ!?」
ベルが申し訳なさそうにそういうと、突然ダンジョン全体に大きな地震が襲い掛かった。
ベルがコアルームを自室として使っていたころのテーブルなどは撤去されているため近くの壁に張り付いて地震をやり過ごそうとするフェゴールとケットシー。
そんな強烈な振動の中でベルだけが何事も無いかのように二本の足で立っていた。
「私ね、考えていたんだ。」
「な、何を!?」
「ダンジョンバトルってダンジョン同士を戦わせることを言うんだよね?」
「そ、そうね。」
「でもどこにあるかも分からない他のダンジョンに地上経由でモンスターを送り合うような戦いはあり得ないんじゃないかな~って思ってたんだ。」
「……」
「そうなるとどういう風に戦ったら一番自然なのかな~って考えたの。そしたらダンジョンごと会場に移動すればいいんじゃないかな~って。それくらいなら多分神様だったら余裕で出来そうだし。」
「そ、それって!?」
「うん、この地震は多分ダンジョンを転移しているから発生しているんだと思う。」
「「ダンジョンを転移!?」ニャ!?」
フェゴールやダンジョン内限定だがベルが多用している転移の魔法であるが、流石にダンジョンを丸ごと転移させるとなると高位の魔術師数人程度ではどうにもならない程の極大魔法である。
全ての種類の魔法が使えるフェゴールであるが、今現在ダンジョンの転移に使われているこの魔法は膨大で純粋な魔力を丹精に練り込んだうえで放たれた只の転移である。
何万年単位で転移の魔法だけを極め続ければこの極致にたどり着けるかも知れないが、魔法の種類だけを頭の中に詰めただけの今のフェゴールでは程遠い魔法であった。
「まぁ、これから始まるお祭り騒ぎの前座としては大人しいくらいの揺れだと私は思うけどね。」
「一体何が起こっているんだニャ!?それにチチチチビッ子、お前は何者だニャ!?」
「もうちょっと隠してた方が面白かったんだけどなぁ。仕方ないか。」
あまり褒められる態度では無かったケットシーだがベル的には付き合いやすい分類のムードメーカーであった。
だが自分の正体を明かした時に今と同じ態度で付き合ってくれるとは限らない。
それでも今は隠し通しておくよりも正直に話していた方がいいとベルは判断したようだ。
「私はベル、そしてこれから起こるのは……ちょっと殺伐としたサバイバルゲームだよ!」