139、【怠惰】と一斉突撃
「よし、作戦が決まったぞ。」
「そうですか、それでその作戦とは?」
「ダンジョンまで突っ走る!」
「「「は?」」」
オルスの突拍子もない提案に、合いの手を打ったアルフレッドだけではなく周りにいた殆どの冒険者が間の抜けた声を漏らす。
そんな空気の中で一人だけ自信満々のオルスが大きく胸を張って声高らかに作戦……いや、作戦にもなっていない根性論を述べ始める。
「ダンジョンの入り口だったらどうせ細い一本道だろ?そこまでおびき寄せて各個撃破していけばあの数のスケルトンだってどうにかなるんじゃねーか?」
ここで一つ補足しておこう。
Bランクパーティとして今回の作戦のリーダーを務めているオルスだが、何かに行き詰った際の彼の行動はお世辞にも理性的とは言えない場合の方が多い。
ダンジョンコア関連の突発的な行動は今回限りの奇行という訳ではなく、毎回それに並ぶほどの変な判断をするのである。
それでもなお彼ら『忘れられた黄金』が誰一人として欠けずに冒険者を続けられているのは彼の圧倒的な勘と運によるものだと言えよう。
同じパーティメンバーであるエストリアとハーデスが言葉に出来ないような表情をしているが、それでも止めようとしない程度には信用されているリーダー、それがオルスという人物であった。
「おいおい……確かに通路までたどり着けばスケルトンは何とかなるかも知れないけどよぉ、ダンジョンの中から出てくるモンスターと挟み撃ちにあったらどうするんだよ。」
「あらあら~、それ以前にダンジョンまでたどり着けるのかしら~?そもそも本当にここのダンジョンの入り口が一本道になっているのかしら~?」
当然ながらそんなオルスの事をあまり知らない冒険者、特に現実主義者気味なトリルとソフランは大いに反発し始める。
オルスの案に穴が多いのはもちろんだが、二人は先にダンジョンを見ているためダンジョンの入り口がフロアボスにより防がれている事を知っている。
命令を無視したことはバレたくはないが失敗することが目に見えている作戦も実行したくない、それ故の反対意見であった。
いつも通りのフリをして内心では汗ダラダラなのである。
二人からド正論をぶつけられたオルスだが彼には確信的なひらめきがあった。
「ん~、まぁ何とかなるだろ。な、ベル!」
「えっ私!?そりゃ何とかす……何とかなると思うけど。」
『何とかする』と言いかけたのを慌てて引っ込めたベルの存在こそがオルスの作戦のキモであった。
人間とダンジョンコア。本来であれば敵対関係とも言えるこの両者だが、何故か人間に混ざって冒険者ごっこをしているベルであればここに居る冒険者たちを蹴落とすような事は考えないであろうとオルスは考えた。
後はベルに丸投げして『窮地に陥ったけど運よくなんとか助かった』ような演出をしてもらえれば何とかなるだろう、という結局運に投げっぱなしの作戦だ。
ベルの固有能力である『怠惰の烙印』の存在を知っているオルスとしてはこのまま突っ込んでも問題無いのは分かっているのだが、彼としてもベルの事は出来るだけ隠し通したいと思っていた。
なのでモンスターの弱さを出来るだけ目立たなくするために集団を一網打尽にして個々のパラメーターに目がいかないようにと考えたようだ。
「よし、行くぜ!!」
「おう!」
文句を言いたそうな顔の面々にはリーダー権限だとゴリ押して、ダンジョンへの突撃が始まった。
整備された道のど真ん中を罠の警戒も一切せずに足音高らかに駆け抜ける冒険者たち。
(スケルトンさん、何人か追いかけてきて。)
(カタカタカタ……)
ベルの念話に反応したスケルトンの数体が建築作業を中断して追いかけてくる。
ノコギリやトンカチを持って追いかけてくるスケルトンは武器としてまだ言い訳ができるが、鉋や釘を持っているスケルトンはどうやって戦うつもりなのだろうか。
全力で走り抜けたおかげでダンジョンの入り口が見えてくる、が──
「入り口が塞がっているんだな!?」
「……通れない。」
トントンとタージャが言うように入り口はフロアボスの効果により閉ざされており、このままでは行き止まりを背にして大工スケルトンと戦うことになってしまう。
……普通に勝てそうな気もしなくはない。
「あの光の壁は何!?」
そんな彼らと同様に驚いているのはベルだった。
どうやらフロアボス化したモンスターが居ると次の階層に進めなくなることをうっかり忘れていたようだ。