138、【諸刃】と十分後
お腹が痛いのでみじ回
人間たちがどうしたものかと頭を近づけて話し合い、またダンジョンコアやモンスターたちは来たる大イベントに心を騒めかせている頃、無表情の代表格であるあのモロハまでもが新米戦を前にして落ち着きを欠いていた。
周辺の適当な木にもたれて座り自身の刀を柔らかな布でゆっくりと磨く、一件落ち着いた情景にも見えるだろうがこれは彼女なりのルーティーンであり、つまりはいつも通りの行動を行うことによって心の平穏を保とうとしているのである。
言い換えるならば『いつも通りでいよう』と思い、それを実践しなければならない程に心が乱れていた、という訳だ。
「アンタねぇ……オルスたちはまだ揉めてるけど敵は居るんだから剣を磨いている場合じゃないでしょうが。」
それに目ざとく気が付いたミントがモロハに近づき話しかける。
武器の手入れは大切だがミントの言う通り戦闘直前にやる事ではない。
「……もうちょっと。」
「はいはい……って、あれ?なんか今日は口数多くない?いつもの『……ん』はどうしたのよ?」
「……気のせい。」
「気のせいならしょうがないわね~、ってなる訳ないでしょーが!アンタ何か隠してるでしょ、アタイの勘は一割当たるのよ。」
たったの10%である。
いや、勘が10%も当たれば大した確率なのかもしれないが。
「まぁアンタの考えてる事は分かるわよ。あのナンタラ~ドラゴンを前に武者震いが止まらないって感じじゃない?」
「……ん。」
「やっぱりそうよね!でも勝手に手を出しちゃダメだから。それは分かっているでしょ?」
ここまで来て今だにエンシェントドラゴンの名前を憶えていないミントの読みにモロハが首を縦に振り肯定の意を表したが、あくまで肯定したのは武者震いしている事だけでありエンシェントドラゴンの事はあまり考えていないようだ。
そう、ベルもモロハも新米戦で誰と戦うかはまだ知らされていないのである。