134、【怠惰】と方針
時間は少し遡りソフランたち六人がベルのダンジョンに向かって静かに移動し始めたころ……
「あのねお姉ちゃん。」
「何かしらベル?」
「私のダンジョンってキングさんが思っていたよりも頑張ってたおかげで結構形になってたよね?」
「……あのテーマパークがダンジョンだって言うなら完成度は高いわね。」
「だったら新米戦に向けて私のやる事はもう何もないよね?」
「…まぁ、そうなるのかしら?」
「だよね!やったー、今日は何も気にしないで遊べる~!!」
「そうはならないでしょ!?」
半分くらいまで減ったペットボトルのミルクティを片手に相変わらず妙ちくりんな話を繰り広げているのはベルとフェゴールの二人だ。
先日自分のダンジョンが全く別物に作り変えられていたことに気が付いたベルだったが、それはベルが特に頑張らなくてもダンジョンが勝手に発展していっているのだとポジティブに捉えたようだ。
アレをダンジョンと呼ぶべきかはともかく、あれだけの規模のテーマパークをこの短期間で外見だけでも整えたスケルトンキングの手腕は確かに褒めたたえるべきであると言える。
ただ裏を返せば外見だけしか完成していないとも言えた。
「新米戦は明日なんでしょ?具体的な時間は分からないけど、どっちにしたって明日中なんてダンジョンとしてもテーマパークとしても完成させるのは難しいんじゃない?」
ダンジョンの機能や魔法など、この世界特有の技術をふんだんに取り入れたとしてもダンジョン製作は今日明日で出来る事業ではない。
「んー、まぁ、何とかなるんじゃない?」
しかしフェゴールの正論はベルには刺さらないようで、手に持ったミルクティをマイペースに飲み干した。
「うまい、もう一杯!」
「はいはい。」
なれた手つきでストレージを開いて今度は先ほどとは違う模様の容器に入ったミルクティを取り出して、そのフタを開けて飲み始めた。
「うん、こっちも美味しい!」
「……それでダンジョンは放置って事でいいの?」
「グビグビ……放置じゃなくてキングさんに任せるの。ダンジョンを協力して盛り上げる仲間を信じるのは当然だよね。」
「物は言いようね……」
「あ、お姉ちゃんはお姉ちゃんだから他の子よりも信じているからね。」
「……ごちそうさま。」
「どういたしまして。」
人形が動いているのとほとんど変わらないマナドールの顔なので赤く染まる事はないが、その表情が照れているのは一目瞭然である。
この後しばらく沈黙が続くのだがそれは気まずいものでは無く、何となく心地の良い静寂の時間がゆったりと流れていく。
その沈黙を破ったのはテンションの高い少女の声だった。
「むむむ、こんなところに居るなんて、随分と探したにぇよ!この後ヒマだったらこの前のイゴってゲームで勝負にぇ!……って、あちゃ~、これはもしやお邪魔しちゃったみたいにぇ?」
「あ、オニキスちゃん。別に何もしていなかったから大丈夫だよ。」
「ベルの言う通り大丈夫よ。(お邪魔はされちゃったけど……)」
「ん?何か言ったにぇ?」
「何も~?」
結局ダンジョンの方針はスケルトンキングに任せた状態で現状維持することに決定して、今日はオニキスの相手をしながら一日を過ごす事にしたベル。
碁盤を出しながらウキウキを隠しきれないベルを見ながら、そのやる気をダンジョンの方にも生かして欲しいとフェゴールため息をつくのであった。