127、【怠惰】と社内案内
「全く……こんなチビッ子にはいくら口で説明したってきっと伝わらないニャ。ここはベル様の代理のスケルトンキングの代理である吾輩が直々にこのダンジョンを案内してやるニャ!ニャーハッハー!」
「私はチビッ子じゃないし肩書が全然威張れないし一人称も安定してないしツッコミどころが多いよ!」
ツッコミどころが多いと言いつつも全てにツッコミきるベルも大概だが、そんな反応もお構いなしに先輩風を吹かせていくケットシーがコアルームの外に向かって堂々と歩いて行った。
そうなると当然コアルームにベルとフェゴールの二人が取り残されるわけで──
「どうする、お姉ちゃん?」
「……どうやらこのダンジョンは手が加わって私たちの知っているダンジョンでは無くなっているみたいだから案内は必要でしょうね。」
「うぅ、なんか自分の会社なのに平社員に案内させている社長みたいな気分……」
「気分と言うよりそのままな気がするけど、とにかく行きましょう。」
「うん。」
少々気が進まないもののこのまま待っていても埒が明かないと判断した二人は既に姿が見えなくなっているケットシーを追う事にした。
「さぁ、まずはここを紹介するニャ。」
「あれ、ここって……」
「前にプールを作った部屋ね、前よりなんだか通路が多いけど。」
ドヤ顔で待ち構えていたケットシーに追い付いた二人は見慣れた石畳の部屋にたどり着いていた。
中央に作ったスライムプールも健在で以前と同じ部屋かと思いきや、明らかに目につく違いが一つあった。
以前まではダンジョンの入り口とコアルームに行くための二つの通路があったハズだが、今では左右の壁にもそれぞれ一本ずつ新たな通路が開通していたのだ。
「まぁ紹介って言ってもニャ、ここはダンジョンの各ポイントに移動するための通用路みたいな部屋だからな~んにも無いんだけどニャ!」
「通用路?」
「各ポイント?」
「そうニャ。そもそもダンジョンはとっても不思議な空間なんだニャ。例えばダンジョンの外側から大きな穴を掘ったとしてもダンジョン内の部屋を掘り当てる事は出来ないんだニャ。」
「ええと…つまりどういう事、お姉ちゃん?」
「私に聞くのね……えっと、このダンジョンの入り口って確か下り階段になっていたハズだけど、その階段の先にある部屋にはその階段からしか入れないって事かしら?」
「そういう事ニャ、アンタは吾輩の次に偉いニャ。」
ケットシーが誉めているのかいないのか良く分からない事を言いながら続けた。
「ダンジョンの中はダンジョンの外とは全く違う異空間ニャ。要は通路さえ繋げてしまえばどんな繋げ方をしてもダンジョンなら繋がっているって事ニャ。例えば隣同士に置かれた通路でも片方は山の上、片方は平原のど真ん中~って事もダンジョンなら可能なのニャ。」
「むむむ、なんだか分かったような分からないような……」
「大丈夫ニャ、吾輩も全然分かってないニャ!大体はフィーリングなのニャ!」
「つまりこの場所にある三つの通路は三つに分かれているように見えるけど、実際はそれぞれがダンジョン内の主要な場所に繋がっている、って事でいいのかしら?」
「そうなのニャ!」
ここぞとばかりにケットシーが腰に手を当てて「ドーン!!」と効果音が付きそうなほどのドヤ顔で頷いた。
自信満々のケットシーがいつまでも「ドーン!!」としていたが、ここで何かに気が付いたフェゴールが声をかける。
「ちょっと待って、それってつまりこの場所に来るための入り口が少なくとも三つあるって事よね!すぐ先にコアルームがあるのに大丈夫なの!?」
ベルが自室のように使っていて忘れがちだが、本来のコアルームは最終防衛ラインである。
それなのにコアルームの手前であるこの部屋にたどり着く道が三つもある事に疑問を抱いたのだ。
フェゴールの真面目な疑問を受けたケットシーは少し慌てた様子を見せた。
「ま、まぁ確かにニャ、セキュリティー的にはすっごくマズいとは思っているニャ!だけどもこれはひとえにベル様の事を思っての設計だから目を瞑って見逃して欲しいニャ!」
「ベル様を思って?」
コテンと首を傾げたのはベルであった。
どうでもいい事だが、自分がそのベル様である事は隠す方針のようだ。
当然その方が楽しそうだからである。
「そうニャ。この通路を通ればきっと分かってくれるはずニャ!それじゃあ早速──」
ケットシーがそう言いかけた時、ベルが大切な事を思い出した。
「ちょっと待って!今日はもう遅いからどこか一か所だけにして欲しいんだけど。」
そう、ベルたちは夜な夜な冒険者たちの元をこっそりと抜け出して来ているのである。
元々はサクッとダンジョンを見直す程度を想定していたのだが、思ったよりも大きくなっていそうなダンジョンを全て見回る事は出来ないだろう。
そう考えたベルの咄嗟のお願いである。
「分かったニャ。それじゃあ正面ゲートだけにしておくニャ。」
「「正面ゲート?」」
それだけ言ってからケットシーは真正面の通路を爆走していった。
「……あの子、本当に案内する気あるのかしら?」
「……さぁ?」