119、蒼天とトラブルメーカー
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ベルが暴風に囚われたまま放置されている頃、この場所に滞在しているらしい冒険者一行を探していたジャンとテムジンは途方に暮れていた。
「完全に油断してた……思ったより建物が多くてどこを探したものか……」
「『一度放棄された場所』という事は『一度はこの場所にも建物があった』って事ですからね、新築だけではなく修理された廃墟も多くて結構入り組んでいるみたいですね。」
「そうだな、通りすがりの職人に聞いても目的のパーティは管理に狩りにと色々動きまくっていて特定の場所に居るのは夜だけみたいだし……どうする?一旦戻って夜を待つか?」
「そうですね、これ以上待たせるとトラブルメーカーが多い偵察隊の面々に何が起こっても不思議じゃないですからね。」
ふふっと笑うテムジン。
多いどころか半数以上がトラブルメーカーな気もするし、そもそもトラブルは起こった後だったりするのだが、当然この二人は知る由もない。
「トラブルメーカーねぇ…例えば誰のことだ?とりあえず言ってみ?」
「何で言わなきゃいけないんですか。」
「いいからいいから。」
「全く……少女四人のパーティでリーダーをしているミントさんは典型的だと思いますね。あの人はあまりにも直情的でリーダーには向いていなくて、それでも持ち前の周りを巻き込む性格でメンバーを引っ張っていくカリスマ性はあると思うんですが、今のところはただのおてんば娘って感じでしょうか。」
※テムジンの主観です
「他には?トラブルメーカーが多いって事はまだまだ居るんだろ?」
「全員言わせる気ですか!?」
「当然!」
「はぁ……」
『お前もトラブルメーカーだぞ』と言わんばかりのため息をついたテムジンは再び記憶を探る。
「他にはオニキスさんですかね。トラブル体質と言うよりはトラブルを作るのが好きといった印象ですが。」
「それってどう違うんだ?」
「巻き込まれるんじゃなくて巻き込むタイプとでも言うんでしょうかね?いつの事かは忘れましたが平坦で平凡な日常はキライにぇ、って昔言っていた気がしますよ。」
「そりゃまた迷惑な……そういやアルフレッドはどうなんだ?」
「アルフレッドさん……ウワサしか聞いていませんが町中を覆った暗雲の原因だった人でしたよね?あの人は特段トラブルメーカーって訳では無いと私は思いますね。」
「どうしてだ?」
「人生を送っている限り誰だって悪い事は考えますしトラブルだって起こります。あの人が結局何をしたのかまでは聞き及んでいませんが、少なくとも事件を起こす事を楽しんでいたような人物ではないと思うんですよね。」
※テムジンの主観です
「良く分からん……そうだ、ベルはどうなんだ?」
「ベルちゃんですか……」
テムジンの頭の中でベルと出会ったあの日から今までの思い出が思い返される。
エンシェントドラゴンの傍で出会い、未発見のダンジョンを気楽に出入りして、見たこともない料理を惜しげもなく振舞い、町を物珍しそうに眺めていた不思議な少女。
そしてテムジンは結論をだした。
「ベルはトラブルメーカーではありませんよ。」
「何でだ?」
「ベルはトラブルですから。」
※テムジンの主観です