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116、【怠惰】とエメラルド

みじ回

「それにしても大きな渓谷だね、お姉ちゃん。」

「ええ、遠くから見てるだけでもすごい威圧感だわ。」



ベルたちの立っている位置から渓谷までは15m以上は離れているのだが、それでも漆黒の谷間に吸い込まれるような錯覚を覚えるほど巨大な渓谷はまさに大自然の脅威である。

いや、ダンジョンの地形の一つなので人工物なのだが。


そんな大()自然を眺めていた二人だったが、その光景の中でキラリと輝く緑色の何かをベルの目が捉えた。



「あっ、あれってもしかしてエメラルドじゃない!?ホラ、崖のギリギリのところ。」

「えーと……あれね。あんなに小さいのをよく見つけたわね。」



小さな指が指す先端には確かに小さな緑色の結晶がいくつか見えている。

その場所まではやや距離が開いているので崖のギリギリにあるように見えるが、おそらくは1mほど崖から離れた場所でキラリと自己主張していた。


余談だが魔力が結晶化した魔石としてのエメラルドはまるで研磨した後のような光沢のまま地面に埋まっているため露出していれば発見は容易である。

逆に言えば地面に完全に埋まったエメラルドは誰にも発見されず、その状態のまま少しずつ大きくなっていくため希少価値は高くなる。

その大きさは時に片手では掴めない程までに膨れ上がり、そのため欲の強い冒険者であるほど光る地面に興味を示さなくなるそうだ。


そういった事情など知る訳もないベルは五円玉の穴程度の大きさしかないであろうエメラルドの集合体に目を奪われていた。

ロクに情報を仕入れずに目先の小さな利益に目を奪われる姿も小物臭こそすれどある意味欲の強さを表しているのかもしれない。


そして欲が強い者であればこの後の行動はご察しの通りである。



「ちょっと拾ってくる、お姉ちゃんはそこで待ってて~!」

「言うと思った……」



ご機嫌な足取りでエメラルドに近づいて行くベル。

しかしエメラルドに近づくという事は遠く離れていた位置からでも強烈なプレッシャーを放っていた渓谷に近づくという事に他ならない。


最初は軽かった足取りが一歩ごとに重くなる。

上機嫌な笑顔が恐怖に上塗りされていく。

ただただ見守っているだけであったフェゴールの顔も人には見せられないような表情に変わる。

死の道に自ら歩み寄る感覚にひたすらめまいを感じながらも欲に眩んだ足だけは着実に前に進み続ける。


そしてついに──



「おおぉ、遠くで見ているよりもいっぱいあった!……ちょっと怖いけど。」



点々と辺りに散らばる緑の輝き、ベルの求めていた以上の成果に恐怖で固まっていた表情が思わず緩む。

小さいとはいえかさばる量だがストレージリングにかかればお茶の子さいさいである。

少し屈んで目についたエメラルドは掃除機でゴミを吸い上げるかのようにストレージリングに格納していき、あっという間にあたりの輝きは失われた。



「よし終わったね、早くここから離れよっと。」



そう言いながら立ち上がろうとしたその時──



「──うわっと!?」

「ベルッ!?」



渓谷側に向かって突風が通り抜け、体制の整っていなかったベルの軽い体が宙に投げ出された。

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