113、【怠惰】と笑顔の仮面
「という訳でダンジョンに行ってくるね。」
「どういう訳だよ!」
唐突なベルの申し出に定番のツッコミを重ねるトリル。
「いやぁ、せっかくダンジョンに立ち寄ったんだからちょっとくらい覗くのもアリかな~って。」
建前は省いて本音の部分だけを伝えたベル。
そもそも建前にはダンジョンコア云々が絡んでしまうため言う訳にはいかないだろう。
それに対してトリルは残念な物を見るような表情で(実際に残念な物を見ているのだが)ベルを引き留める。
「気持ちは分からんでもないがいささか軽率すぎる、早死にしたくなければやめておけ。それ以上に今のリーダーはジャンだ。リーダーが休憩しておくようにと命令したのだからそれに背くような事は慎め。」
「む~。」
コンビで行動することが多いトリルでも団体行動時にリーダーとなる人物の言い分に従う事の大切さは分かっているようだ。
モンスターが溢れるこの世界においては身勝手な行動が死に直結しかねないのだから当然と言えば当然である。
逆に観光気分が抜けきっていないベルはもう少し危機管理を意識して行動してほしいところである。
ふくれっ面になったベルだが、トリルの言う事が正論であることくらいは分かっている。
サントからこの場所に来るまでの約三日間の間ジャンは初々しいながらもリーダーとして皆を見事に取りまとめて信頼を勝ち取っていた。
最低でも『そんなジャンを自分が裏切ってはいけない』というベルの真摯な思いが湧き上がる程に、である。
「それじゃあ──」
『このまま休憩しておこうかな。』と言いかけたその瞬間、意外な方向から追い風が舞い上がった。
「あらあら~、中は流石に危険だけど入り口を見る位なら許してもいいんじゃないかしら~。」
「ふぇ?」
「ソ、ソフラン!?」
その追い風はフローラルな陽気を纏ったオトナな雰囲気の女性、ソフランが起こしたようだ。
「おいおい、いいのかよソフラン。」
「新しい物を見てワクワクする気持ちはトリルも分かるって言ってたわよね~?このあたりまで作りかけの家があるって事はダンジョンの入り口だって色んな建物が立っているハズじゃないかしら~。それを見て帰ってくるだけでも面白いと思うわ~。」
「そ、そうだろうけど…」
「ね、責任は持つわ~。ジャンには私が唆したって言っておくから~。」
「ま、まぁ、ソフランがそこまで言うならいいんじゃないか?多分…」
何とも困った表情で頭をかくトリル。
どうもトリルはソフランの言う事には強く反論できない関係のようだ。
「えーと、ありがとう?」
何故ソフランがこんなことを言い出したのか不思議でならないベルであったが、とりあえず感謝の気持ちを伝えることは忘れない。
そんなベルの耳元でソフランは小さくささやいた。
(ちょっとだけならバレないと思うわよ~。)
(!?)
ソフランの言葉、それは『ダンジョンに入って来てもいい』と言っているのと何も変わらないものであった。
それだけ言うとササっとベルから離れて何事も無かったかのような笑顔で手を振り始める。
「気を付けてね~、疲れる前に帰ってくるのよ~。」
「あ、うん、行ってきます?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいベル!?」
唐突な話の流れに付いて行けず歯切れの悪い返事しか返せないベルだが、その足だけはしっかりとダンジョンの方に向かって歩いているのだから現金なものである。
同じく流れに乗れなかったフェゴールもベルに慌てて付いて行った。
かくしてこの場には頭をかくトリルと笑顔を絶やさないソフランの二人が残った訳であるが、トリルはベルの方を見たままソフランに声をかけた。
「何が目的なんだ?」
「あらあら~、何のことかしら~?」
相変わらず笑顔でそう答えるソフランだが、その笑顔がソフランがよく被っている仮面であることはトリルには分かっていた。
何かをしようと企んでいて、それを表に出したくない時によく使う笑顔の仮面。
この顔をした彼女が何を仕出かすかはトリルにも予想が出来ないことが多い。
そもそもトリルとソフランの二人はベルとフェゴールがモンスターだとノーツから聞いていた(実際にはダンジョンコアだが)ので、トリルとしてはあまり単独行動を許したくはなかった。
そのため何かしらの理由を付けてベルを引き留めようとしていたのだ。
しかしソフランは逆にベルを自由にさせた。
このような行動の違いが起こる以上は何か違う考えを持って行動しているハズだとトリルは懸命に頭をフル回転させる。
ではソフランは何を考えてベルたちを自由に行動させたのだろうか?
そこまで考えが行き届いた所で、トリルはハッとなって自分の横に目をやった。
……そこに先ほどまでいたハズの人物はいつの間にか姿を消していた。
作者「フローラルな陽気ってなんだ…」
ベル「自分で書いたんでしょーが!」




