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111、【怠惰】とアッという間

あまりにも濃厚な毎日を送っていたベルたちにとってエンシェントドラゴン偵察作戦前の五日間は一瞬の出来事のようであった。


何か変化があったとすれば、新人少女四人パーティが自分たちの名前を考え始めたり、『蒼天の探求者』のテムジンと『届かぬ楽譜(スコア)』のソフランが冒険者ギルドの書庫にこもりっきりで何かを調べていたり、トリルが一人で酒をあおっていたり、オニキスが魔術師ギルド内で囲碁を広めていたり、町を練り歩くのに飽きたベルが惰眠をむさぼっていた位だろうか。


……割といつも通りの毎日であった。






「という訳で!今日は皆で樹海に入る日だよ!」

「何が『という訳で!』よ!」



ポカポカ陽気という言葉がしっくりくる非情に気持ちのいい日の光が辺りを包み込む朝、ベルとフェゴールは現在町の西側の郊外、つまりはガンギルオン大樹海の手前で先ほどの漫才をしていた。

ベルたちの漫才を見ていた観客……ではなく、エンシェントドラゴン偵察作戦を行う他のメンバーもそろい踏みで、皆が各々武器や道具の最終確認を行っていた。

当然ながらこの五日間で武具を取り扱う商店で装備のメンテナンスなどは済ませているのだが、武具の状態の是非が自分たちの命運を握っていると考えると最後は自分の手で調整したいと思うのは仕方がない事であろう。


特にランクの高い冒険者であるほどその考えは深いようでトリルとソフランの二人は特に入念に自分の武器を軟らかい布で磨いていた。



「ベルがなんだか元気なんだな。」

「そりゃ久々に……むごっ!」

(久々に自分のダンジョンに帰れるから、とか言いかけたでしょ!)



他者にとっては命の危険を伴う遠征だが、ベルにとってはエンシェントドラゴンよりも樹海に生息している野生のモンスターの方が遥かに恐ろしい相手である。

なのでベル的には多くの護衛に守ってもらいながら家に帰るような感覚であった。


エンシェントドラゴン絡みの面倒ごとは記憶の深いところに閉じ込めて忘れることにしたようだ。



「アンタたちは呑気でいいわね。」

「気を張ってても成るようにしか成らないにぇ、変に空気が重くなるよりはアレくらいの方がちょうどいいにぇ。」

「こっちにも呑気なのが居た……」

「お褒めに預かり光栄にぇ。」

「褒めてない!」



呆れるミントとケラケラ笑うオニキス。

この町に来たばかりのミントはオニキスとも初対面のハズだが、ボケ体質とツッコミ体質で相性がいいのか絶妙にバランスの取れたコンビに見える。



「お前たち、そろそろ出発の時間じゃぞ!」



若干緩んだ場に大声でカツを入れたのはギルドマスターのノーツ。

今回の作戦には参加しないが見送りに来たようだ。


全員の注目が自分に集まっていることを確認したノーツは最終確認を行う。



「ではこれよりエンシェントドラゴン、およびダンジョンの偵察を行ってもらう!あくまで討伐や踏破ではなく偵察である事を忘れず不用意な危険は避けるように。それと今回の作戦にはBランクの冒険者にも同行してもらうが、そのパーティは現在翠玉の地下渓谷に居る。なので先にそちらに合流すること。それまでのリーダーは……そうだな……ジャン!お前がやるのだ。」

「俺!?待ってくれ、俺よりもトリルさんの方がランクも実力も上のハズじゃ!?」

「確かにトリルはランクも実力もあるがパーティが低人数であるため大人数での連携には慣れていないと判断した。またお前さんはベルとフェゴールを連れた状態で樹海から帰ってきたこともあるだろう?何、あの時と比べて八人程度増えただけじゃないか。」

「多いわ!」



ある程度は抵抗したがそれもむなしくジャンが14人の暫定的なリーダーになる事が決定した。



「あーあ、なんだがエンシェントドラゴンの件以上に緊張してきた…」

「そう言うな、翠玉の地下渓谷は早ければ三日で着くような場所だ。そんなもんアッという間に通り過ぎるわい、ワッハッハ!」

「アッという間、ねぇ…」

「ほら、リーダーがなんて情けない顔してるんだ。さっさと出発しろよ、明るく元気に、な。」

「そう…だな。しゃおらッ!!」



両手で自分の顔をパンッと大きく一回叩いて気合を入れなおす。



「それじゃあ皆、短い間だが俺を含めた14名の命運は俺が預かった!返して欲しければ全員で協力して樹海を突破するぞ!!」

「「「おぉ~!!」」」



短いながらもカリスマ性を感じるジャンの雄たけびに首を横に振る者は一人も居なかった。

ここから短くも長いガンギルオン大樹海での三日間が始まるのだ。



「さぁ進め、魔法使いを中心に防御力か索敵力が高いヤツが前後に付け!後は隙間を埋めるように歩調を合わせろ!問題があったときにその都度修正する!」

「おー!」



ベルも小さな手を握りしめブンブンと振り回しながらガンギルオン大樹海に向かって駆けだした、その時──



「アッ──」



──小石につまづいて転んだ。




♢♦♢




「──っという間に着いた、ここが翠玉の地下渓谷だよ。」

「誰に向かって言っているのよ!」



ガンギルオン大樹海での三日間は特に何も起こらずアッという間に到着した。

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