110、【怠惰】の振り返り
サントのメインストリートを歩くベルとフェゴール。
レンガのようなもので作られた四角い街並みもそろそろ見慣れてきた頃だが、露天の品ぞろえや道路を走る馬車などは毎日変わるためまだまだ知らない光景に出会うチャンスは色んな場所に転がっている。
現在は冒険者ギルドから魔術師ギルドに帰っている最中である。
今だにオニキスの私室で寝泊まりしている状態であるがベルたちもオニキスも特に問題は無いようだ。
「えーと、今日から二十日後にエンシェントドラゴンと接触、その前に翠玉の地下渓谷に寄り道して欲しいから五日後に町を出てそこで高ランクの冒険者と合流しつつ時間を調整してエンシェントドラゴンの元に向かう……なんだか慌ただしくなってきたね。最初は経験値が欲しかっただけなのに。」
「もうちょっと目立たないように……って言いたいけど、あの場所で冒険者に見つかったのは偶然としか言いようが無いから仕方がないわね。」
随分と昔の事のように感じるだろうが、事の発端はベルが経験値欲しさにエンシェントドラゴンを召喚して討伐しようとしたことから始まった。
そのまま倒せればよかったのだが相手は全モンスターでも最高クラスであるドラゴン種のさらにトップであるエンシェントドラゴン、ベルの固有スキル『【怠惰】の烙印』により五大パラメーターが0になっていたが有り余る体力によりすぐには倒すことが出来なかった。
その間にエンシェントドラゴンの存在に気が付いた冒険者パーティ『蒼天の探求者』たちと遭遇してなんやかんやの末に現在に至るのである。
本来なら感慨にひたるべぎ状況なのだろうが、ここまでの経緯がドタバタ騒ぎの連続であったためダンジョンに戻る日が近い事にむしろ安堵の表情が外に出てしまう二人であった。
「ダンジョンの外も楽しかったけど、毎日がイベントだらけで全然ゴロゴロ出来なかったね。」
「また来たい?」
「うーん、目的があるならともかく観光は半年に一回くらいで丁度いいかな。」
「一応今回は目的があったでしょ…」
「そっか、これがあったね。」
そう言いつつストレージリングから取り出したのはいつの間にか買っていた布製の袋に詰まった植物の種であった。
ベルのダンジョンではほぼ無限に食料を購入できるがその種類はコンビニで買えるようなパンやインスタント麺などに限定される。
ダンジョンコアであるベルは基本的に食料による栄養の偏りは気にしなくてもいいのだが、毎日同じような食べ物だけではやがて気が滅入るだろう。
その改善策としてこの町に野菜や果物の種や苗を購入しに来た、というのが建前としての目標であった。
購入した種や苗をどこに埋めるかは全く考えていないうえに誰が管理するのかも決まっていないが、その辺りはいつも通りの当たって砕けろ精神でどうにかする予定だが、言い換えれば何の予定も無いという事であった。
「ん?」
「ん?どうしたの、ベル?」
「いや、なんか頭の中にメッセージみたいなのが送られてきたみたいで…」
ベルとフェゴールがこれまでの思い出を振り返りながら歩いていると、急に立ち止まったベルが意味不明な事を言い始めた。
「メッセージ?」
「うん。えーと、『二十日後に新人ダンジョンコア同士の模擬ダンジョンバトルである新米戦を開催するよ。各自ダンジョンを最高のコンディションに整えて当日に備えよう。創世神より』……だって。」
「ふーん……ん?創世神!?ダンジョンバトル!?しかも二十日後!?」
ベルに創造されたときからダンジョンに関する基礎知識があったフェゴールは驚愕する。
新米戦というのは初耳だが、どうやら新人同士が戦う大会のようなものが近日中にあるらしい。
その日程が二十日後、つまりベルがダンジョンに戻るタイミングと同時であった。
ダンジョンを整えるように書いてあるらしいが日数的には間に合うはずがなく絶望的。
またベルの生み出すモンスターに戦力を求めることが出来ないためどうしようもない。
今回の戦いは模擬戦らしいので気を張る必要は無さそうとはいえ、フェゴールが驚くのも無理は無い内容であった。
「そう書いてあったよ。ところでお姉ちゃん?」
「うん?」
「ダンジョンバトルって……何?」
何故か基礎知識が欠落しているベルにフェゴールは頭を抱えた。
作者「何話ぶりか分からない程に放置されていたダンジョンバトル君、ようやく始動!」
フェ「で、開始まで何パートかかるの?」
作者「うっ…(予定なし)」