109、エンシェントドラゴン偵察作戦・決定
「はいはいはーい、質問があるっス!」
「ココアか、どうした?」
会話の間が開いタイミングを見計らいココアが元気に手を振り回した。
ソフランの戦略的な話の転換とは違って、こちらは天然100%である。
「そのナントカドラゴンが居るナントカ樹海ってどこにあるんっスか?」
「……エンシェントドラゴンが居るガンギルオン大樹海ならこの町の目と鼻の先だぞ?」
「ほえ~、知らなかったっス!」
「はぁ…」
彼女のあるかどうかも分からない尊厳のために補足しておくと、田舎村出身の彼女たちにはどうしてもこの手の情報が手に入りずらい環境で育ち、そのため地域の情報を集めておく事をあまり重要視していなかったためにガンギルオン大樹海の事も知らなかったのである。
それにこの新人パーティがサントにやってきた理由が大樹海の探索ではなく護衛依頼の達成であったため、この町の先がどうなっているかも興味が無かったのだ。
何とも初歩的な質問に思わずため息を隠しきれなかったノーツだが、「そう言えば…」と何かに思い至ったノーツは各々の顔を見渡してから疑問を投げかけた。
「この中にガンギルオン大樹海に入ったことが無い者はどれだけ居るのだ?」
少々の間を開けてパラパラと手が上がる、その数は14名中7名であった。
「アタイたちは全員この町自体が初めてだし樹海の事も知らなかったからね。」
「そうっス。」
「ふえぇ、すみません~。」
「…ん。」
「樹海なんて夢とロマンを語る阿呆の行く場所だ、俺たちには関係ないな。」
「そうね~、命を懸けてお金を稼ぐ位ならドブ掃除の仕事の方がマシかしら~。」
「興味はありましたが機会が無かったのでね。」
ミント、ココア、バニラ、モロハ、トリル、ソフラン、アルフレッドの七名が初めての樹海入りであるようだ。
残りのベル、フェゴール、ジャン、テムジン、タージャ、トントン、オニキスは樹海を経験済みだそうだ。
「って、オニキスちゃんも樹海に行ったことがあるの?魔術師ギルドのマスターなんでしょ?」
「マスターだから行くんだにぇ。モンスターの素材を研究するためには元々の生きた状態のモンスターを実際に見る事だって必要だにぇ。この樹海は多種多様なモンスターが生息しているだけじゃなくってダンジョンも存在しているにぇ。こんな格好の研究課題を見逃すような真似はできないにぇ。」
ベルの驚きの声に胸を反らしてドヤ顔で解説するオニキス。
以前は四大元素魔法によるオリジナルの飛行魔法を使用していたオニキスであるが、その魔力は戦闘面でも期待が持てそうであった。
参加メンバーの内半数が樹海に入ったことが無い、これを半数しかと考えるべきか半数もと考えるべきか、ノーツの厳しい表情を見る限りどうやら彼は後者の考えであるようだ。
「樹海に行ったことのあるメンバーから今回のリーダーを選ぼうとしたのだが、うむ…この中で一番戦闘経験があるのはオニキスだが、このお転婆に全てを委ねるのは問題しかないな。」
「何でにぇ~!!」
「かといってフェゴールやテムジンにこの個性的な面々任せるのも厳しい…か。」
「無視するなにぇ~!!」
オニキスもそうだが、しれっとベルとジャンを除外しているあたり彼らの評価が伺えるかもしれない。
それはそうと、今回のメンバーの中で最もランクが高いのはCランクであるトリルとソフランである。
戦闘面で言うならオニキスが一番だと思われるが彼女は冒険者ギルドに所属していないため冒険者ランクは所持しておらず、また本来の戦闘力が未知数であるアルフレッドも基本的には個人での活動が中心であるためDランクと低めである。
なのでリーダーはトリルかソフランになる訳だが、その彼らは大樹海に入った経験が無いため安直にリーダーに任命することは出来ない。
この問題に顎をさすりながら考え込んでいたノーツだが、やがて妙案を思いついた彼は顔を上げて言葉を紡ぐ。
「それならば任務の追加だ。エンシェントドラゴンとダンジョンが発見された地点に向かう前にお前たちにはある場所に向かってもらう。その場所に居る人物にリーダーを引き受けてもらうといい。」
「ある場所って?」
ベルが聞き返すとノーツは少し溜めてから声を出す。
「それは……大樹海内に存在するダンジョンの一つ、【翠玉の地下渓谷】だ!」