108、エンシェントドラゴン偵察作戦・確認
「それでは始めるか……と言っても冒険者ギルドから方針を伝えるだけだがな。」
「それって会議なの?」
「そう言うな。エンシェントドラゴン絡みで動くのはお前たちだけじゃないのだ。」
ノーツが言うには他の町への通達や物資の補充等で動く手筈になっている冒険者もいるらしく、それらの日程にズレが生じると今後の作戦に響く可能性があるためギルドが決めた日程通りに動いてほしいそうだ。
遅いのは論外だが早すぎてもダメなのである。
「さて、何も知らずにここに来た者など居ないとは思うが一応改めて確認しておくとしよう。エンシェントドラゴンが確認された場所はここからガンギルオン大樹海に入り西に十日ほど歩いた地点だそうだ。ジャン、間違いはないな?」
「その通りだ。な、テムジン?」
「何でこっちに振るんですか!?」
「そりゃ俺は頭が悪いからな。」
「自分で言わないでください。」
緊張していても、いつもの漫才は健在のようだ。
「…続けるぞ?その地点では未発見だったダンジョンも確認されており、そのため当初予定していた人数よりも多い人員が必要だと我々は判断したため、このように大樹海に潜るには多すぎる編成となってしまった。そこの新人たちやアルフレッドがそうだな。」
「じゃあアルフレッドを切っちゃえば?」
「そんなに気に入らないならお前さんが抜ければいいだろうに。」
「こんなに金の匂いが漂う依頼を断る訳無いじゃない!」
「だったら諦めろ。」
「ぐ、ぐぬぬ~。」
ミントは相当アルフレッドの事が気に入らないようで、噛みつく寸前の野犬のような表情で唸っていた。
それにしても、大嫌いなアルフレッドよりも金の匂いに釣られるからモロハに守銭奴などと言われるのではないだろうか?
それに対してアルフレッドは特に気にした様子は無い。
ミントの言葉には何か思うところがあってもおかしくは無いハズだが、その顔にはしわ一つ浮かんではいなかったのだ。
彼は戦争で成り上がった家系の三男らしいが、その面の皮の厚さは間違いなく貴族のそれである。
怒りを隠さず今にも飛び出しそうなミントと我関せずを押し通すつもりのアルフレッド。
剣呑な気配が場を支配しようと広がりだしたその刹那、この場には相応しくない程にのんびりとした声がピリピリとした場の空気を押し返した。
「あの~、エンシェントドラゴンの事は聞いていたんだけど~、ダンジョンの事は聞いてないんですけど~。」
周りの状況も関係なく手をあげて間延びした声で質問をしたのはソフランであった。
非情にのんびりした性格に見える彼女だが実は計算高い人物であり、今回の割り込みも非常に良いタイミングである。
ソフランの唐突な質問に内心ホッとしたのはノーツである。
実はトリルとソフランの二人もノーツからダンジョンが発見された件は聞いていたのだが、場の空気を戻すために知らないフリをしていたのだ。
ある意味アルフレッド以上に面の皮が厚い人物であると言えるだろう。
「ああ、エンシェントドラゴンが居た地点には崖があるらしいが、その崖を降りた場所にはダンジョンも発見されているらしい。通常通りダンジョンの難易度を確認しにいくのは当然だが、今回の場合はダンジョンとエンシェントドラゴンの関係も調べなければならない。」
(ギクッ!)
「ねぇ?その『ダンジョンとエンシェントドラゴンの関係』ってどういうことなの?」
「言葉通りの意味だ。エンシェントドラゴンが発見された場所にたまたまダンジョンがあったとは考えにくいからな、何かしらの理由がそこにあるハズなのだ。ダンジョンから漏れる魔力に吸い寄せられてその場所に留まっているとか、ダンジョンから出てくるモンスターを餌に成長しているとか、もしくはエンシェントドラゴンがダンジョンと結びついているとかな。」
(ギクギクッ!!)
現地に行くまでもなく殆ど的中しているがエンシェントドラゴン偵察作戦は当然予定通りに行われる。
ビクビクと体をくねらせるベルを無視して。