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決断の夜

 謎の馬車を見てからナナの表情が暗くなった。そのことには俺だけでなくアリシアも気づいたらしく、ナナが寝た後にそっと俺に声をかけてきた。


「そういうことだったのか。事情はわかった。おそらくこの土地の資源を狙っている商人、もしくは支配しようと考える貴族たちなのだろう」


 かいつまんで説明するとアリシアはそう結論を述べた。地球と同じようにこの世界でも土地や資源を巡って争いがあるんだな。


「でも、ここってもとはフロンって王女様が治めていた土地なんじゃないの? そんなに簡単に侵略できるものなのか?」


「もしかしたら、何者かが今回の襲撃事件と関わりがあるのかもしれない。それもかなり高い身分の者だ。そもそもいともたやすく城が陥落するなどありえない。何者かが魔物と通じていたと考えるのが自然かもしれない」


 そう話しながらアリシアは怒りでわなわなと震えていた。


 とはいえ、帰るための手がかりも召喚術についてもさっぱりわからないまま、今日一日なんの収穫も得られなかった。


「ナツメ、わたしはお前に召喚獣だとばれたら命はないと教えたな」


「そうだけど、それがどうしたの」


「一度、街に潜入するというのも作戦にしていいのかもしれない。このまま隠れ続けているより、わたしたちが生き延びる可能性はあるように思う」


 確かにアリシアの言う通りだ。いつまでもここに隠れているのは安全だが、後手後手にまわってしまう危険もある。そもそもここでいくら情報をさがしていても答えなんて見つからないかもしれない。


「ナツメよ、もしお前がその気であればわたしとナナのあるじになってみてはどうだ?」


「主? どういうこと?」


「召喚士を演じるということだ。今回の魔物の襲撃で誰が死に誰が生きているのか、その正確なところを知るものはだれもいない。わたしにすらわからないのだ」


「つまり、召喚士を演じて街に潜入するってことか……でも、本当にばれないの?」


「ナツメ、召喚士、いやこの世界の人間の特徴は漆黒の髪だ。それをナツメは持っている。実はな、ナツメを召喚士だと怪しんだのはその髪の色もあるんだ」


「でもさ、ばれたら確実に殺されるんだよね……」


「わたしは、死ぬことはそれほど怖くはない。隠れて暮らし続けるほうが辛い。ナツメは来たばかりでわからないだろうが、わたしはもう2つの季節をここで過ごした。王女様とたったふたりで。ひとりだったらたえられなかったかもしれない」


 気丈に見えたアリシアも精神的に相当疲れているってことなんだろう。一刻も早くもとの世界に帰りたい。寂しい。そういう不安定なところに俺がいたから、昨日は俺と一緒にならないかなんてせまったのかもしれない。


「わかった。でも、ナナは街には帰りたがらないかもしれない」


「そうだな。無理には……」


 すると、わたくしも行きます、とナナが身体を起こして言った。


「わたくしも行きます。ひとりでここにいるよりは皆さんと一緒の方が気分がまぎれますし、いつまでもここに隠れていても安全ではないことはわかります」


「よし、じゃあ、どうやって街に潜入するのか考えよう。元の世界に帰るのに比べたらずっと簡単なミッションだ」

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