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もうひとりの同居人

「やめてください! 敵ではありません!」


 メイド服に身をつつみ、首輪をつけた金髪の獣人が階段から落ちたのだ。ゆるふわの巻き毛でパープルの瞳の少女は頭に耳が生えていることとネコみたいな尻尾が生えているところ以外はごく普通の中学生と変わらない容姿をしている。性格も幼くずいぶんとあわてんぼうのようだ。


「何者だ! 事と次第によっては生きて帰れると思うな」


「違います! 怪しい者ではございません! わたくしは街から逃げてきた召喚獣です。逃げて逃げて気がついたら森の中のお城に来ていました。するとどこからか声がするじゃありませんか。わたくしの耳は人間よりはるかにすぐれているのです。それで、あなたたちも召喚獣のようでしたので、ここに住まわせていただけないかと思ったのでございます」


 そう言えばアリシアが言っていたな。街では召喚獣に人権はないと。そこいらじゅうに擦り傷や青あざがある少女をみて苦々しくその言葉を思い出した。


「……しかしだな」


 アリシアは何かを考えている様子だ。メイドの獣人を疑っているのかもしれない。俺だってかなり怪しいとは思う。しかし、あざをみると怒る気になれない。酷い虐待を受けていたであろうことは明白だった。


「アリシア、人が増えればそれだけ元の世界に帰る仲間が増えるってことだし、別にいいんじゃないかな」


「ありがとうございます! わたくしはどんな辛い作業でもやります! ですのでどうか置いてください。それに、わたくしの耳はあなた方を守る役に立つと思います……っっ、はくしゅん!」


 濡れたせいか大きなくしゃみをした。


「しょうがないな。おまえ、名前は?」


 アリシアがきつい調子で言うが、そんなことはまるで気にしてないように獣人の少女は答える。


「ナナと呼ばれておりました。それ以外に名前はございません」


「俺はナツメ、元の世界に帰る方法を探している。こっちの騎士はアリシアで彼女も同じことを考えている」


「ナツメ、わたしには姫をもとの姿に戻すという使命もあるのだ」


「そうか、そうだね。魔物の姿じゃあ可哀想だ。とにかく三人で力を合わせてこの状況を乗り越えよう」


 とはいったものの具体的な計画は何一つない。


「とりあえずお城の書庫に行きましょう。使えそうな本を運び出すのです。寝泊りは基本的に地下になります。城壁の外には出ないこと。音を立てず、大きな声でおしゃべりも禁止です。食事も地下ですることになります。火は使えないので魔法石で温めて調理します。いいですね。ナナ! 火は厳禁ですよ。煙などが昇ればたちどころに見つかってしまいます」


 こうして俺とアリシアとナナの奇妙な異世界同居生活が始まった。

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