俺をイケメンと呼ぶ世界
「な、なんでそんなものがついているんだ! まさか男なのか!?」
まるで生まれて初めて男を見たという風に女は言った。
「そうだけど、なにもそこまで驚かなくてもいいだろう」
「いや、その、てっきりお前のことを女だと思っていてな。だってしょうがないだろう。この世界では男は異世界から召喚しなくてはいないのだから。わたしのいた世界でも男はとても珍しかった。選ばれた女戦士だけが男と結婚し子供を残すことができたのだ」
この世界には男が少ないのか。それも珍しい。ひょっとしてこの世界で俺ってモテモテなんじゃないか?
「すまなかった。か弱い男にこのような恥ずかしい想いをさせてしまったな。よければそなたの裸をみた責任をとろう」
責任!? なんだよ責任って!
「いいよ! 責任なんてないから! 俺のほうこそごめん!」
「そ、そうか。それにして本当に美しい男だな」
ぽうっと頬を赤くそめてまじまじと俺のことを見つめる。当然だけれど地球で美しいなんていわれたことは一度もなかった。いや、どちらかというと下の部類にはいるかもしれない。自称中の下、女子からみれば下の上かもな。いや、悲しくなるからやめておこう。
「わたしの世界の男はなんというか、ごりらみたいに毛深かったのだ。この世界でもそうだ。そなたのような美しい姿をした殿方は少ない。もっと言えばオークやゴブリンのような異形男性ですらありがたがられる」
たしかにオークやゴブリンに比べれば遥かに美形だ。美男子だ。その美的センスは俺にもわかる。
「わたしの名前はアーサー・アルフテッド・アリシア。もとの世界では剣闘士をしていた。わたしはこの国の兵士として召喚されたのだ」
ようやく名前を名乗ってくれた。
「アーサー・アルフテッド・アリシアか。俺の名前はナツメ・イチノスケ。ナツメって呼ばれていた。元の世界では学校に通っていて、卒業した後はスーパーに就職。えっと、スーパーっていうのはなんでも屋さんね。パンや魚、ジュースにお酒、なんでも置いてあるお店のことだよ。ま、今は無職だけど」
「なんと、学校に通っていたのか。すごいな。そのスーパーとやらも面白いお店だ。そんなお店があればたちまち繁盛するだろう。わたしは剣術一筋だったからそのような難しいことはわからないが、美しいナツメにはぴったりだと思う」
あれ、なんかこれって俺、めちゃくちゃアリシアにアプローチかけられてないか?
いや、俺でもオークやゴブリンみたいな獣人と結婚するなら多分ほとんどの女は美人になるよな。
アリシアは燃えるような真っ赤な瞳でじっと俺のことを見つめている。どこかあやしい色を浮かべながら。お互いに生まれたままの姿で見つめ合うのは限界を感じた。下半身的にもだ。
「なあ、ところでさ、ここは地下なのになんでこんなに明るいんだ?」
話題をそらす。
「魔法石の力だ。太陽の光を吸収し、放出している。だからあたたかいし明るいのだ」
よくわからないが天然のライトのようなものだろうか。
「俺、なんだかお腹がすいて……」
「ナツメにお願いがある。わたしとここで暮らしてくれないか?」
そ、それって……告白!?
「ちょっ、俺たち会ったばかりだぞ」
「わかっている。だが、わたしには、わたしには心のよりどころが必要なのだ。召喚獣同士、支え合っていかぬか?」
これはチャンスだって、30の男ならわかる。わかるけれどさ、落ち着いて考えてみよう。うん、もうこんなチャンスはないかもしれない。なら、やるしかないよな。さらば童貞。俺は漢になる!
アリシアの美しい白い裸体にとびかかろうとしたその時、何者かが地下に降りて来る足音がするとざぶんざぶんと泉が大きく揺れた。