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見つかってはいけない新生活

「ここがわたしの隠れ家だ」


 そう言って案内してくれたのは廃墟の中でも城壁の側にある今にも崩れそうな見張り搭の一つだった。


「こんな場所じゃあすぐに見つかってしまいそうだけれど」


 俺が疑問を口にすると、女性は窓から顏を出さないように注意した。


「いけない、窓からはぜったいに外を見てはいけない。誰に見つかるかわからないのだから。いいか、わたしたちは隠れていなければいけないんだ。そこいらの盗賊ならまだしも、もし召喚士に見つかればわたしの力ではお前を庇うことなんてできないのだからな」


「わかったよ。でも、こんな状況でどうやって生活するんだ?」


「地下に一部の兵士しかしらない隠し扉がある。そこなら安全だ。あとな、ここから城の外を見る時は窓ではなく割れた城壁の隙間から様子をうかがうのだ。だが、生活している空気をだしてはならない。もっともこんな辺境までくるもの好きは少ないが、それでも油断はしてはならない」


 異世界に来たというのに廃墟に閉じ込められないといけないのかと考えると気分が沈んでくる。もっとこう、大冒険でもしてみたいものなのに。


「気落ちするな、隠し通路に案内しよう」


 そこはなにもない床だった。女性がマントを下に敷くまでは。マントをかけると床がすけてそのまま下に降りる階段につながっている。階段の下は泉になっていた。


「ここの水はとても清らかだ。飲むことも水浴びをすることもできる。地下からどんどん湧き出してくるからな」


 そう教えてくれたけれど、生水なんて大丈夫なんだろうかと考えた。でも、これからこの世界で生きていくならそんなことを言ってはいられないのかもしれない。それに、たしかに女性の言うように透き通った天然水が噴出しているようだった。


「もともとこの辺りは水の綺麗な豊かな土地だったんだ」


 そう言うと女性はマントの下に着ていた鎖帷子くさりかたびらを脱いだ。ただし銀色の美しい女神の彫られた短剣だけは肌から離すことはない。


 一糸纏わぬ姿の女性は腰まで届く銀髪と艶めかしい美尻を俺に見せたまま泉の奥に進んでいった。


「リラックスするといい。ここにはわたしとお前しかおらぬのだから」


 状況が良く理解できない。すくなくとも地球にいた頃の感覚ではこういうことは恋人同士か夫婦がすることだ。でも、たしか江戸時代くらいまでは男女混浴が日本では当たり前だったというのを聞いた記憶もある。おそらく海外でも中世に混浴の文化をもっていた国はあっただろう。ならば、恥ずかしがっているのは自分だけということで、なんだかバカみたいだ。でも、あんなかわいい女性と暮らしていたら間違いを犯さないとは言い切れない自分もいる。というか、考えてみたらそういう処理とかどうしたらいいんだろうか。彼女も性欲がないわけではないだろうし。なんて悶々としていると、泉の奥からなんとも不気味な獣の叫ぶ声がした。


「もしかしてお城の地下に閉じ込められたモンスター!?」


「ふ、なにを言うか、あの声は魔物の軍勢にお城滅ぼされた時に姿を変えられてしまったフロン王女だ」


 王女様が魔物に……。


「姿は醜くなり、人の言葉を話すこともできないが、心はフロン様のままだ。かわいそうに。なんとかして元のお姿に戻してさしあげたい」


「俺、調べてみるよ。もしかしたらお城の本に魔法に関するものがあるかもしれないし」


「うむ、ありがたいな。ところで、なんでこちらへ来ないのだ? まさか裸を見られるのが恥ずかしいなどと乙女のようなことを考えているわけではあるまい」


「いや、でも……」


「ふ、変なやつだ。こういうことはお互いに気を許してやった方が上手くいくものだ。それとも、なにか泉に入れないわけでもあるのかな? この泉には魔法をたちどころに解除する力もある。王女にかけられたような強い魔法は解くことはできないがな」


 そうか、この人は俺のことを試しているのか。考えてみればどこに武器を隠し持っているのかわからないものな。


「わかった。言う通りにするよ」


 覚悟を決めて俺が裸になると、王女のものとはまたちがった甲高い悲鳴が地下にこだましたのだった。


 

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