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召喚された世界

 西洋風のお城であっただろう半壊した建造物がそこにはあった。石垣のいたるところに焼け焦げた跡や刃物でついたであろう傷が残っている。急な出来事に俺はどうしたらいいかわからなくなった。どれくらいそこに突っ立ってぼけっと廃墟を眺めていたのだろう。ずいぶんと長い時間が過ぎたような気がする。それなのに、時計を見るとおよそ数分しか経っていなかった。


「これはいわゆるテレポーテーションってやつか?」


 俺はヨーロッパのどこかにワープしてしまったと考えた。ありえないことだが、そうでもしないとこの状況の説明がつかない。パスポートももっていないが帰ることができるのだろうか? とりあえず日本の領事館にでもいって保護してもらおう。もしかしたら表に出ていないだけで俺のようにテレポートした人間を政府は把握しているのかもしれないし。


 そうと決まれば街へ出て人を探さなくてはならない。言葉が通じるか自信はあまりなかった。英検も中学時代に受験した3級止まり。たどたどしい英語と日本語しかはなせない典型的な日本人だ。


「おい、貴様! そこで何をしている!」


 キツイ感じの女の声だ。だが、聞き取れる。日本語だ。良かったここは日本なんだ。よろこんで後ろを振り向くと白いバラのような花の描かれた光沢のあるマントに身を包んだ女がそこに立っていた。赤い燃えるような目に銀色の髪をしている。張りのある肌と整った顏立ち。20歳くらいの若い女性だ。


「迷い込んでしまったんです。ここがどこだかもわからない」


 極めて冷静に、相手を刺激しないように返事をしたが、ゲームや小説の世界でしかみたことのない風貌の女性を目の前にしてかなり困惑していた。だが、彼女が俺の救世主になり得るとも考えた。身なりから考えるに異世界の警察か、さもなくば現実世界のコスプレイヤーだろう。今さらっと異世界と考えたのは、なんとなくここが日本ではないどこかだと感じていたからだ。単なる勘だ。


「迷い込んだ? つまりは貴様はもう一つの世界の住人ということなのか?」


「もう一つの世界?」


「そうさ、ここは召喚士と呼ばれる魔術使いがいてね、どこかの世界からこの世界にないいろいろなものをもってくることができるんだよ。それは金銀財宝や美しい異性であったり、珍しい動物であったりね」


 女性の話をまとめるとこうだ、つまり俺はこの世界に住んでいる召喚士とやらに呼び出されてしまったということなのだろう。


「待って、俺をもとの世界に帰してくれ! あんた、その方法を知っているんだろう」


「……さあね、わたしは戦うために召喚されただけだから」


 っていうことはこの女性も俺と同じ境遇なのか。


「じゃあ、あんたの主人は召喚士なんだろ? その人に頼めば地球に帰してもらえるんだね」


「無理だね。わたしを召喚した召喚士は魔物に殺されてしまった。わたしもあんたもこの世界に閉じ込められちまったんだよ。おまけにこの世界で召喚された召喚獣、つまりわたしやあんたは人権なんてものがない。仕事につくことも街に入ることもできない」


 最悪のスタートだ。異世界にワープしたら普通チートスキルがあったり、最強の剣があったり、なんかあるだろう。これじゃあ地球にいた時以下じゃないか。極端なことをいえば異世界という広い部屋に閉じ込められたとも言える。


「ちょっと待ってくれ、じゃあ、あんたはどうやって生活しているんだよ。食べ物や着るものやお風呂はどうしているんだ」


「ふっ、わたしたちみたいな召喚獣は日々を生きるのに精いっぱいだと考えるのは普通のことだろうな。実際、殺してでも食料や金銭を奪う者もいる。だが、これでもわたしはこのハーティエル王国第一騎士団師団長に召喚された高潔な聖騎士だ。そのようなことはしない。詳しいことはいえないがな。ふん、見たところ害はなさそうだな」


「ないよ。なにも害なんてない。俺はただ地球へ帰りたいだけなんだから」


「……そうだな。わたしも主が亡き今この世界にこだわる必要もない。元の世界に帰る方法をさがしている途中なのだが、手伝ってみるか?」


 俺は申し出に即答して首を振った。駆け引きとか考えている余裕はないというか、駆け引きができるような立場にいなかった。もし彼女が悪い人間であればとっくに俺は後ろから斬られていただろう。そうしないということは、まあ、そこまで極悪人ではないんだろう。多分。それに、見知らぬ世界でひとりぼっちのほうがよっぽど怖い。ポジティブに考えれば一回り若い美人な女性と過ごせるのだ、それ程わるい申し出でもないだろう。ああ、男って、いや、俺って単純だなと女性騎士の後ろを歩きながらひとりで笑っていた。

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