兎、死す!?
兎はあくまでチョイ役です。
勝ったのは兎でした。
『きゅー?きゅっ』
【大丈夫か?お前ら、見た所この辺の者じゃなさそうだな。】
『あの、ありがとうございます。』
一応助けて貰ったみたいなので、お礼を言っておきます。
『きゅー』
【良いって事よ。それより子供が二人だけで、こんな場所に居るのは感心しないな。俺が送ってやるから付いて来な。】
『何か、付いて来いって言ってるみたい。』
『優樹、もしかして、兎の言葉が分かるの?』
『うん、何でかわからないけど、さっきから渋いおじさんみたいな声で話してる』
『私には鳴き声しか聴こえないけど、この見た目で渋いおじさんボイスって…』
『きゅー』
【嬢ちゃん、俺はこう見えても嬢ちゃんの親御さん位の歳だ。娘や息子位の子供が困ってるのを見捨てる様な真似は出来ねえよ。】
さっきからいちいち言動が渋いんですが。確か、こう言うのって、ハードボイルドって言うんでしたっけ?
『まぁ、ここでジッとしてたって仕方無いしね。優樹、通訳任せたわよ。』
『うん…そう言う事なんで、お願いします。えーと…
』
『きゅー?きゅ』
『【俺の名前か?俺は“ヴァリー”だ。】だって。』
『頼んだわよ、バリー』
『きゅっ、きゅっ』
『【“バ”じゃなくて“ヴァ”だ。】だって。』
『あ、うん。』
僕と悠李ちゃんはヴァリーさんに付いて森を進みます。
道中、ヴァリーさんは男としての矜持等、僕に色々な事を教えてくれました。
歩き始めてから暫く立った頃でしょうか。
僕の耳に突如
【見ぃ付けぇたぁ】
と恐ろしい声が聴こえました。
その声は当然、ヴァリーさんにも聴こえていた様で、
『きゅー!』
【坊主、嬢ちゃんを連れて逃げr】
ドゴン!
言い切る前に、ヴァリーさんの小さな身体は赤い血と共に宙を舞いました。
僕はとっさに悠李ちゃんを押し倒して、ギリギリの所で襲撃を交わす事が出来ました。
あとちょっと遅かったら、僕と悠李ちゃんもあの怪物に殺されていたかもしれません。
ヴァリーさんはピクリとも動きません。
『あっ、ああ…』
悠李ちゃんが震えて居ます。普段はお姉さんぶってる悠李ちゃんですが、それでもか弱い女の小です。怖くないはずがありません。僕だって怖いです。
僕は悠李ちゃんと怪物の間に両手を拡げて立ち塞がります。怖いけど、僕が悠李ちゃんを守らなきゃ。
怪物を睨み付けながら、
『悠李ちゃん、僕が囮になるから速く此処から逃げて!』
【ふん、逃がす訳がない。一人残らず喰ってやる。】
知ってるよ。でも、大好きな女の子一人すら守れないんじゃ、僕に“ユウキ”って名前を付けてくれたお父さんや、男の何たるかを教えてくれたヴァリーさんにも申し訳が立たないよ。
怪物の巨大な腕が、僕達目掛けて振り下ろされる。その瞬間
【おい、ガキ。その小娘を守りたいって気持ちに嘘は無いか?】
何処からか声が聴こえました。
僕は迷わず『悠李ちゃんは僕が守る!』
と答えました。
すると声の主は
【くっくっ、合格だ。あとはオレに任せな!】
そう言うと、僕の意識は途絶えました。
次で森を抜けます。