第4話
朝、竜喜は仕事場へと向かう。昨夜の出来事が頭から離れない。
ふと思い返すたび胸がドキっとする。悪魔の存在以前の問題として自分が死のうとしていたということに。
「まさか、な。」
確かに死んだら楽かもしれないと考えてみたことはあるが、いざ死んでみようとする度胸は竜喜にはない。それでも胸がドキっとするのは、悪魔に本音を言い当てられたからなのかもしれない。
「死ぬなんて、そんな。」
ボソボソ呟きうつむいて歩いていると、目の前に人がいることに気づかずぶつかってしまった。
「あ、すみません。よく見てなくて…。て、あれ大橋さん。おはようございます。」
気づけばもう仕事場の近くだった。
「大丈夫かい、ぼーとして。なんか死ぬとか、言ってなかった?僕の気のせい?」
「あ、いや、そんなこと言ってないです。大丈夫です…。」
「そ、ならいいんだけどね。吹谷君元気ないから心配になるよ。寒いし中入ろうか。」
竜喜の仕事場は田崎が借りてるマンションの一室である。
お互い防寒具を外しながら会話を進める。
「それで、読み切りは描いてくれる?」
「あ、えーと。」
読み切りのことなど忘れていた。
「やっちゃお、ね。吹谷君の漫画面白いからさ。大丈夫だよ。」
「はぁ、そうですね。」
思わず適当に相槌を打ってしまった。
「本当かい?じゃあさ、早速描き始めといてよ。いやー、天才復活だね。」
大橋は竜喜の気持ちなどお構いなしにグイグイ話を進めるタイプの人である。編集者であるから仕方ないのかもしれないが。
「まぁ、じゃあ。」
勢いに押されて返事を返した。
別に嫌というわけでは無い。ただ彼には自信がなかったのである。
だけれども今日の竜喜は漫画のことなどちっぽけに思えるほど頭の中がいっぱいだった。
その日の仕事は手に付かなかった。
「悪魔…か。」
帰り道もずっと考えていた。
気づけばあの高台にいた。
もう一度会いたくなったのである。
会えば何かわかるような気がしていたのかもしれない。
「あのー。悪魔さん。もしいたら出てきてくれませんか。」
静かな高台で誰かに聞かれないように小さな声で呟いた。
すると強い風が竜喜にふきつける。
思わず身構え風を凌いだ。
そして目の前にはあの生意気そうな風貌が浮かんでいた。




