第2話
「お前、辛気臭い顔してんな。今にも死しそうな顔してんぜ。」
突然聞こえたその声は竜喜の目の前、つまり空中から聞こえて来た。
竜喜は空耳だと思ったがあまりにもはっきりとした声だったので思わず顔を上げる。
けれども何も見えない。
「ビックリした、やっぱり何かの聞き違いかな。僕はどうやら疲れているらしい。
だいたい誰が空中に立てるっていうのさ。声なんか聞こえるはずがないよね。」
と、自分に言い聞かせるようにつぶやく。
心臓はまだバクバクしているようだ。
安堵も束の間再び声が聞こえる。
「いるんだなー、それが。お前の目の前にちゃんと。」
今度はもっとハッキリ聞こえてしまった。
しかも竜喜の独り言への返事であったので流石の竜喜も自分の目の前に何かがいることを認めざる得なかった。
「やっぱり、誰か、いるんです…か?」
恐怖と不気味さが竜喜を襲っている。それと寒さも。
驚いている割には冷静に聞き返している方だ。
「ふふ、姿を見せてやるよ。驚いてひっくり返るなよ、人間野郎。」
小さく頷き竜喜は息を飲む。
そして声の主は姿を現した。
目を丸くする竜喜の前に現れたのは少なからず人間ではなかった。
竜喜は意外にも驚かず、質問した。
「えと、あなたは…何者なんですか?」
「オレか?オレはあれだよ。えーと
…つまり、悪魔ってやつだな。
お前死にそうな面していつもここに来るから興味が湧いたのさ。ボソボソいつも独り言してるから面白そうだなって。」
流石に意味がわからなかった。
竜喜の思考は停止したがそれは当たり前である。突然現れて空中に浮いていて「オレは悪魔です。」なんて言われて、
「はいそうですか。」とは普通ならない。
何から突っ込めばいいのかわからない竜喜はとりあえず口を開く。
「あくま...?あくまってあの、天使と反対のやつですか?」
悪魔は少し驚き、にやりと笑う。
「ずいぶん呑み込みが早いじゃないか。ただ天使と反対って言われるとちーとむかつくがまあいい、さっきも言ったが俺は
悪魔だ。よろしくな。」
宙に浮かぶそいつは黒い服を着ていて、頭から触覚がででいて、背中から羽根のようなものが見えている。口元には尖った歯が数本、
肌は真っ赤だった。
「お前、死のうとしてたのか?」
「えっと、いやあ、どうでしょう。死ぬつもりは毛頭ないですが、いっそ死んでしまったら楽になるかなって思ったりして。」
なんだか普通に話しかけてくるので、竜喜はどこか安心していて目の前の生き物とコミュニケーションをとる姿勢を見せている。
「へえ、そうかい。俺が止めてなっかたらきっとお前は飛び降りてたぜ。なんたってお前には俺が見えているんだからな。人間が悪魔を見えるようになるのは
死期が近い時、それも自殺の時だけだからな。つまり俺が話しかけなきゃお前はとっくにあの世行きだったぜ。」
悪魔はケタケタと笑っていた。
「へぇ、し、知らなかったです。けど僕死のうだなんて思っていなかったですよ。確かにつらいですけど。」
「あのな、人間。自殺なんてなその瞬間の迷いでしちまうもんなんだよ。気持ちが高ぶって気が付きゃ手首切ってるもんなんだよ。ゆっくりと縄に首を吊る奴なんか珍しいんだぜ。その時の嫌な気分から解放されたくてしちまうのさ。人間てのは脆い生き物なのさ。」
「はあ、そうなんですか。」
思わず納得してしまった。
しかし、ここで竜喜はあることに気が付く。
「あのー、助けてもらっておいてあれなんですが悪魔って人間を地獄とかに連れていく存在なんじゃないんですか?どうして死のうとしている人を助けたりするんですか?」
と、率直な疑問を投げかけた。
「それはお前ら人間の勝手なイメージだぜ。いいか、俺らがしてるのは単なる魂の回収なんだよ。
死にそうな人間の近くにいって死んだ瞬間魂引き抜いて天界に連れ戻してんの。天使の奴らは逆に生まれてくる生き物に魂の付与をしてるわけで、役割的になんか俺らの方がダークな感じがするからお前らが勝手に地獄だなんだと言ってるだけだぜ。だから別に俺らは人間を殺して連れて行ったりはしないんだぜ。」
「な、なるほど。だから僕にはあなたが見えているんですね。やっぱり僕死ぬとこだったんだ…」
「ま、そうゆうことだ。よかったな、お前まだ生きてるぜ。俺のことが見えてるくせに死ぬのにこんなに時間がかかる奴は珍しいぜ。余程ビビりなんだな、お前。」
「ええ、まあ。」
「ケケ、お前どうすんだよ。死なねーなら俺もう帰るぜ。」
悪魔はどこか楽しげだ。
「僕、死にませんよ。だからもう大丈夫だと思います。ご迷惑をおかけしました。」
と、竜喜は無理に笑いながら言った。
「ふーん。じゃあな。」
そう言って、悪魔は振り向きプカプカ空へと飛んで行った。
その背中はどこか寂しげだった。
背中が小さくなるのを見届けた後自分も帰ろうと思い、振り返った瞬間我に返った。




