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世界に向けて詩を唄うよ  作者: ゆう
第1章
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第1話

「あぁ、またこの場所に来てしまった…」

白い息を吐きながら竜喜は街を一望できる高台に一人佇んでいた。

気晴らし程度に夜中家を出て散歩しているうちに考え事をしていると自然とこの場所に来てしまう。

ポケットに手を突っ込み、小刻みに動く。

街には光が散らばり空の星も調子が良さそうだ。

時刻は午前2時32分。

「帰ろう…」

ポツリと呟き竜喜は歩き始めた。

アスファルトから足に冷たさが歩くたびに伝わってくる。

この時間ともなれば聞こえて来るのは自販機の稼働音と冷たい風の音くらいなもので、竜喜の足音はアスファルトからしっかりと跳ね返って来る。

「ハハ、世界に僕がひとりぼっちみたい。」

なんて訳のわからないこと呟きながら歩き進める。

家に着く。こたつに入る。うなだれる、机に顔を伏せて。隙間風が冷たい。

シーンとした空気に冷たさがマッチしている。

「あー…明日仕事何時からだろ…」

時刻は午前3過ぎ、流石に寝ようと思い竜喜は顔をムズリと上げた。

こたつ机に置いてあったぐちゃぐちゃな漫画原稿のインクが顔に少し付いていた。

次の朝、ボサボサの髪を鏡の前でボーっと直して仕事場に向かう。

竜喜の今の仕事は漫画家のアシスタントである。

高校頃から漫画を描き始め卒業後専門学校に進学、19歳の時に大きめのコンテストに応募した作品が見事賞を取り、その出版社でそのまま読み切りを書かせてもらいそのまま週間連載がスタート。

将来を期待された漫画家だったが、週間連載の忙しさにより失速し瞬く間に打ち切り。

そして現在はアシスタントとして働きながら自分の漫画を描き進めている。

何度か出版社に持ち込んだが、どうもいい評価を貰えない。賞を取った自分を引きずりすぎていて、いい作品を描けていないらしい。

はっきり言って最近の竜喜は自信を失ってしまっている。

大好きだった漫画はもう随分読んでいない。描くことも昔と比べたら随分ゆったりとしている。

今アシスタントをさせてもらっている漫画家は田崎智則といって、竜喜より一歳年下で竜喜が連載していた少年誌で毎週上位に食い込む人気漫画である。

彼もまた将来を期待されている漫画家である。

いや、"彼は"と言った方が今は正しいかもしれないが。

今日も慌ただしく仕事が終わり、田崎の担当者で大橋がいつものように原稿を取りに来た。

「田崎君、それとアシのみんなもお疲れ様です。毎週 本当にご苦労様です。」

「いえいえ、アシの皆さんのお陰でなんとか連載出来ています。それと大橋さんこの後の展開の話なんですが…」

と田崎と大橋が話し始めたのを見て、竜喜は長くなるだろうと思い帰り支度を始めた。

すると田崎との話を一度やめて大橋が話しかけて来た。

「吹谷君、ちょっといいかな。すぐ終わるからさ。」

「え、あ、はい。」

何の用だと思い、頭の中を探し回るが心当たりは無かった。

「今度うちでまた読み切りを描いてくれないかな?評判が良ければまた連載しようという話が出ているんだよ。編集長がまだ君のことを評価していてね。どうだろう1ヶ月くらいでいいかな?」

「え、」

面食らった。

「前回はうまく連載を続けることが出来なかったけど、君の才能はまだまだこの世界で通用するはずなんだよ。何個か今も描いてはいるんだろう?」

「いや、その何で今更なんですか?僕もうそんなに漫画に熱意が無いんですよ。」

「何でですか竜さん。せっかくチャンスじゃないですか?竜さん絵もうまいしやる気だけっすよ。」

会話を聞いていた田崎が口を挟んできた。

年下に言われるとなんだかムカついた。

「すみません、少し時間をください。また失敗するかもしれないので…」

「そうかい。なるべく早く頼むよ。また君の担当になれるかもしれないと思って楽しみだったもんでね。」

「そうですか、今日はもう帰ります。」

大橋は竜喜の連載時の担当だった。

そうして竜喜は職場を後にした。

家に着く。こたつに入る。

「連載、か。いやその前に読み切りか…」

嬉しくないわけではない。

しかし踏ん切りがつかない。

帰り道にずっと考えていた、田崎が言ったようにチャンスではある、それは分かっているが、正直面白い漫画が描ける気がしない、

それにまたすぐに打ち切りになってしまうかもしれない、等ネガティブな事ばかり。

夜風に当たろうと家を出た。考えていても答えが出ないような気がしたから。

「あぁ、またここか。」

また昨日と同じ場所に来てしまった。

夜景を見ているとすこし心が落ち着いた。

最近真面目に何かを考える事がなかったから竜喜は疲れていた。

「ここ、結構高いな。飛び降りたらどうなるかな…」

死ぬつもりだろうか。

「ハハ、ちょっと疲れてるみたいだ。最近フワフワ浮かんだような体たらくな生活だったから、急に現実に戻されたよ。

また描いてくれだなんてそんな勝手な事言われてもな…。

あの頃はなにも考えずにただ漫画を描く事が楽しかったはずなのに。」

独り言である。うつむく顔からボソボソと白い息が漏れる。

今のは独り言のはずだった。

しかし、突如聞こえるはずのない声が聞こえて来た。

「お前、辛気臭い顔してんな。今にも死しそうな顔してんぜ。」


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