第二章その4
奇妙な一行だと、フィンシードは改めて思った。
会談に出席した三人は正装だが、一人だけ甲冑に身を包んだ少女がいる。
普通なら守られる人より護衛の方が人数が多いはずだが……。
しかしその原因といえば、領事部が忙しかったから、「差し当たって護衛する要人もいないから」という理由で警備部を手伝いに回したフィンシード自身である。
この時、「大使館で一番の要人が何を言っているんだか」とデュラムには苦笑いをされたのだが。
ちなみに「流石に責任者がいないのはまずいだろ」という理由でデュラムが除外され、ミーティアを含めた四人が領事部の事務仕事の手伝いに回された。
しかし手伝いに回ったはずのミーティアが今、どうして本来の護衛の仕事をしているのかというと。
関係者の証言をまとめると、やる気はあったらしい。
それはもう、やる気満々、というくらいに。
ただ残念な事に、領事部のクリーズが「お前がいない方が仕事がはかどる。もう帰ってくれ、頼むから」と懇願したくらいに結果が伴わなかっただけで。
ミーティアを先頭にした奇妙な一行は、帝都の中小路を進んでいく。
陽の当たる場所は豪華で賑やかな石造りの建物と石畳の道路も、大通りから少し入っただけで、陽が差し込まない、薄暗くジメジメした世界に変貌する。
決して広くはない中小路のそこかしこに、みすぼらしい服装の人々が、ある者は気力なく座り込み、またある者は生ゴミを漁って、飢えをしのぐ食べ物を探している。
大陸最大の都市である帝都の華やかな表舞台の輝きに魅せられ、あるいは故郷を失い、一縷の希望を託した長い旅路の果て、たどり着いた新天地での、夢見ていた景色とはあまりにもかけ離れたなれの果て。
希望をなくした彼らの瞳に、自分達の姿はどのように映るのだろう?
熱烈な歓迎など、決して期待できるはずもないが……。
繋いだ手に、ぎゅっと力が込められる。
中小路に入ってから、フィンシードはずっとフィーナの手を引いていたのだ。
「……怖いか?」
「え? あ、いえ大丈夫です、お兄様」
「もう少しで大きな通りに出る。それまで辛抱してくれ」
「は、はい……」
もう一度、繋いだ手に力が込められて、フィーナの表情が少しだけ明るくなる。
中小路を選んだのは失敗だっただろうか?
フィーナの目に触れないまま過ごす事もできたかも知れない。
しかしこの中小路も帝都の本当の顔のひとつ。
その下の水の冷たさを知らないまま、薄氷の上を行くようなものだ。
先頭を行くミーティアが足を止めた。
女性としては背が高いミーティアの肩越しに、行く手を遮る一団が見えた。
「アストリアの人間だな?」
リーダーらしい、巻き毛で浅黒い肌の若い男が言う。
危険な空気を察知して、最後尾を歩いていたデュラムが前に進み出る。
ミーティアと並んで、フィンシードとフィーナを背中にかばう。
「だったらどうする?」
不敵な態度は崩さない。
相手の人数を確認する。
十人。
武器はそれぞれ腰に提げた剣。
人数より、それぞれの実力の方が気にかかる。
「貴様ら個人に恨みはないが、我々ルーンバウムの人間は、貴様らと仲良くするつもりはない」
剣を抜く。
残りの人間もそれに倣う。
その動作だけで、相手の実力もある程度ははかり知る事ができる。
大した相手ではない。
素人に毛が生えた程度だ。
しかしわざわざそれを指摘して火に油を注ぐ必要もない。
デュラムとミーティアも剣に手をかけ、体勢を低くする。
目線は相手から外さないまま、背中のフィンシードに声をかける。
「ここは私達が引き受けます。二人で先に帰っていて下さい」
「悪いがそうさせてもらおうか……行くぞ」
「は、はい」
フィンシードはフィーナの手を引いて、去っていく。
少し戻って回り道をすれば、安全に大使館に戻れるはずだ。
残されたデュラムとミーティア。
「大丈夫ですか? 二人だけにして」
ミーティアはデュラムに耳打ちする。
フィンシードとフィーナを逃げさせたのは良いとして、その先で別の危機に遭遇したら元も子もない。
「大丈夫だ。殿下は俺達二人がまとめてかかったって勝ち目がないくらい強いからな」
「そうですか。いつか手合わせしてもらいたいですね」
「まずは目の前の敵を倒してからだ」
「こてんぱんに叩きのめしてやりましょう!」
息巻くミーティアに、デュラムは呆れ顔でため息をつく。
「俺達はルーンバウム帝国の衛兵じゃないんだ。適当にあしらって逃げるぞ」
敵でも自分達でも、大怪我でもしたら帝国の役人の世話になる事になる。
正当防衛が認められるとしても、面倒には違いない。
「わかりました。腕の二、三本叩き折るだけで勘弁する事にします」
「やりすぎだ!」
「ごちゃごちゃうるさい! やれ!」
デュラムの怒声に、リーダー格の男の号令が重なる。
二人は同時に剣を走らせる。
そして、襲撃者達が自分達の短慮を後悔するのは、それからまもなくの事であった。




