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第二章その3

 会談が終わり、フィンシード一行は大使館に帰るために辻馬車に揺られていた。

「なかなか上手くいかないですねえ、お兄様」

 フィーナは首をかしげながら言った。

「そうだな。簡単に済むとは思ってなかったさ。でも良い事もあったんじゃないか?」

「そうですか?」

「治安を担当するエドヴァルド将軍は真剣に事態を打開しようとしている。そして我々の話にも真摯に耳を傾けてくれた。前向きに考えれば、こんなに良い事はないさ」

「そうですよね……でも事態は何も変わってないですよね?」

「……まあ確かにその通りだな」

 フィンシードは渋い顔で妹の言葉を認める。

 帝都の治安担当者との信頼構築は問題解決の第一歩である。

 しかしまだ第一歩という段階で、到達すべきゴールは先の見えない彼方である。

「悪い事をする奴は片っ端から牢屋にぶち込めばいいじゃないですか。何を難しい事を考えているんですか?」

 そう女性らしからぬ乱暴な事を言ったのはミーティアだった。

 ミーティアはアストリア王国でも数少ない女騎士で、警備部の駐在武官としては紅一点になる。

 整った目鼻立ちと頭の上で結い上げた長い髪が目を惹く美人だが、大らかな性格と女性らしからぬ振る舞いで、色気が足りないのが玉に瑕である。

 会談には同席しなかったが、護衛として同行していたのである。

「犯罪の増加に対応しきれないんだ」

 そう冷たく言葉を返すのは、彼女の上官になるデュラムである。

「そこは努力と根性でカバーすれば良いんです」

「努力と根性って言ったって、限界がある」

「だったら兵士を増やせばいいじゃないですか」

「兵士を増やすにも給料を払わなきゃいけないし、武器や防具も揃えなきゃいけない。兵士に教育を施す必要もある」

「そ、そこは努力と根性で……」

「何とかなったとするか? 今度は捕まえた犯罪者をぶち込む牢屋が足りなくなる」

「牢屋も増やして……」

「牢屋を増やすにも金と人手が必要だし、看守も必要になる。どちらもすぐに何とかできる問題じゃない」

「……………」

 ミーティアは黙り込んで考え込む。

 彼女が考え込むなんて、滅多に見れない光景だ。

 フィンシードは口元を緩めながら、口を挟む。

「一人一人の問題なら、努力と根性で何とかなる事もあるだろう。

 ミーティアは自分の問題や目の前の仕事をそうやって解決していけばいいし、余裕があるなら他の人の手助けをしてくれれば、さらにいい。

 でも人の上に立つ人間は、努力と根性だけで解決できない問題がある事を知っていなくちゃいけない。

 限られた資金、限られた人員を効率的に使う方法を考えなくちゃいけない」

「はあ……じゃあ殿下はどうやれば治安を回復できると思いますか?」

「それは……」

 言いかけたところで、ガタンと音を立てて馬車が止まった。

 今までは話に夢中で気付かなかったが、外からは何やら騒がしい音が聞こえてくる。

「どうした?」

 フィンシードは御者に声をかける。

「旦那、この先で乱闘騒ぎが起こっているみたいですぜ」

 フィンシードは窓から身を乗り出してこの先の様子を見る。

「きっとヴァレンティン教国の連中ですぜ」

 何やらそれぞれ数十人規模のふたつの集団がぶつかり合い、互いを罵り合い、掴み合いの乱闘騒ぎを起こしているようだった。

 その服装から、片方がヴァレンティン教国の人々、もう片方はルーンバウム帝国の人々のようだった。

 それに衛兵の一団も駆け付けたようだった。

「旦那、馬車だとこの先には進めませんぜ」

 乱闘騒ぎは天下の往来を塞いでいた。

 狭い路地には馬車は入っていけないから、ここで降りるか大きく迂回するか、どちらかになる。

「仕方ない。ここで降りる事にしよう」

 フィンシードは多めの路銀を御者に渡し、一行は馬車を降りた。

「騒ぎに巻き込まれないよう、気を付けろよ」

 御者はいたく感激して礼を言い、馬車をUターンさせて引き返していった。

 一行は喧噪から少し離れた場所にぽつんと取り残される。

「殿下、どうしますか?」

 デュラムが聞いてくる。

「騒ぎを避けて、路地を抜けていこう。大使館まではそう遠くないし」

「それがいいでしょう。衛兵も駆け付けているようですから、騒ぎもすぐに収まると思います」

「えーっ、強行突破しないんですか?」

 物騒な事を言い出すのはミーティアだった。

「……絶対にダメだ」

「じゃあ一人ずつ叩きのめしてからゆっくりと行きましょう。それなら殿下も姫も安全です」

「それもダメだっ!」

 そして一行は大通りを離れ、狭い路地に入っていく……。

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