第二章その2
数日後、ルーンバウム帝国帝都守備軍を指揮するエドヴァルド将軍との会談が行なわれた。
エドヴァルド将軍は恰幅のいい中年の男で、およそ剣術に長けた人間のようには見えないし、実際、彼の部下なども剣を抜いたところを見た事がないという。
しかしエドヴァルドは防衛戦の構築と兵力配置に長け、長年に渡って帝都の守備と治安維持という重要な任務を勤め上げてきた人物である。
「私が剣を抜くような事態になった時には、もうすでに帝都は終わりですからな」
と、本人が言ったとか言わないとか。
会談にはフィンシードの他に、警備部のデュラムも同席した。
警備部には大使館内の警備の他に、各国の治安状態の把握という任務もある事から、今回の同席となった。
ちなみにフィーナももっともらしい顔で同席しているが、何かの役に立つとは実の兄も思っていない。
まずは将軍の部下から帝都の軍備などについて簡単な説明があった。
一通り説明を受けた後、フィンシードはいよいよ本題を切り出す。
「将軍、誠に言いづらい事ですが、帝都の治安が悪化しているという事はないでしょうか?」
そしてクリーズが集めてきた話をかいつまんで説明する。
説明を聞いて、快活なエドヴァルドの表情に雲がかかる。
「確かに我が帝都の治安は、天下に胸を張って自慢できる状況とは言いかねます」
そう言って、エドヴァルドの説明が始まる。
戦争が終わり、戦火で故郷を追われた難民、故郷を離れ帝都で一旗揚げようと目論む者、あるいは戦場からの帰還兵など、多くの人間が帝都に流れ込んできた。
急激に人口が増え、職が足りなくなり、生活物資が高騰していく。
新しく帝都に来た者も、昔から帝都に暮らす者も、生活が苦しくなり、互いに反発を強めていく。
そしてパンを買うわずかな金を手に入れるために犯罪に手を染め、さらに反感と敵意をたかめ、暴力をふるう。
「我々も全力を尽くしてはいるのですが、人手が足りていない事もあり、急速な治安の悪化に対応し切れていないというのが現状です」
「そうですか……」
予想はしていたが、あまり芳しい答えではなかった。
ここで帝国と将軍の力不足をなじり、改善を要求するのは簡単だ。
しかし……。
「思った以上に帝都の治安は大変なようですね。将軍も苦労が多い事でしょう。お察しします」
「お気遣い痛み入ります。しかしアストリア王国出身者が多い地区はまだマシな方で、ヴァレンティン教国などは……」
そして会談は雑談混じりに、和やかな雰囲気のまま進んでいった。