第五章その16
翌日、詰めの交渉も終わり、調印式が行われた。
ルーンバウム帝国の代表は宰相サラティエル。
アストリア王国の代表はルーンバウム帝国駐在アストリア王国特命全権大使フィンシード。
低く設定された賠償金だったが、それも賠償金という名目から見舞金に改められた。
これでルーンバウム帝国が謝罪のために支払う義務を負った、というニュアンスから、義務ではなく、あくまで善意で支払う、という事になる。
治安担当者を処罰しない事、事件を起こした賊の罪を問わない事も盛り込まれた。
内容としてはルーンバウム帝国にとって甘く、アストリア王国にとって厳しい物と言える。
国内からは批判を受けるかも知れないが、それはその時に考えようと、フィンシードは楽観的に考えている。
無罪放免が決まってもアボットら賊は未だ取調中である。
近い内に釈放される事になるだろうが、その時は帝都に残るか、出て行くか、それぞれの判断で決めなければならない。
無罪放免と言っても、事件を起こした以上はそういう目で見られてしまう事は仕方ない。
サラティエルとフィンシードは調印を行う。
互いの公文書にサインし、交換すると共に握手を交わす。
大使館占拠事件の外交的決着は、両国の歴史の一ページとして確かに刻まれた。




